« アルファ・ドッグ 破滅へのカウントダウン | トップページ | この道は母へとつづく »

2009/11/07

スペル

監督:サム・ライミ
出演:アリソン・ローマン/ジャスティン・ロング/ローナ・レイヴァー/ディリープ・ラオ/デヴィッド・ペイマー/アドリアナ・バラーザ/チェルシー・ロス/レジー・リー/モリー・チーク/ボヤナ・ノヴァコヴィッチ/ケヴィン・フォスター/フロル・デ・マリア・チャウア

30点満点中16点=監3/話2/出3/芸4/技4

【呪われた3日間】
 交際相手クレイの母親に認めてもらうためには、出世が必要だ。銀行の融資担当者クリスティンは仕事ぶりを上司に見せて次長のポストを得ようと、返済期限延長を請う老婆=ガーナッシュ夫人を冷たく追い返す。が、復讐に燃えるガーナッシュ夫人は、クリスティンに呪いをかけた。霊媒師ラム・ジャスによれば「3日間苦しみが続いた後、ラミアと呼ばれる悪魔の山羊が迎えに来る」という。クリスティンは呪いから逃れることができるのか?
(2009年 アメリカ)

★ある意味でネタバレを含みます★

【どんでん返しには期待するべからず】
 チラシには「先読みを許さない13のショック!」とか「すべてが覆る衝撃のラスト60秒!!」とある。
 えっと、残り20分くらいでオチが読めちゃうんですけれど。いや、まさかこんな単純な終わりかたではあるまい、もうひとヒネリあるはず、という期待とは裏腹に“そのまんま”終わる……。

 基本的にはショッカーだ。薄暗い駐車場、風に揺れる木の葉、黒いネコなどオモワセブリックなアイテムを配置し、画面をナナメに切り取って不安感を煽り、そして突然のドンっ、うぎゃぁ。ビクっとさせられた場面は、確かに13回くらいあったかも知れない。

 この部分で特に頑張っているのが関係。弦の旋律が空気を冷やし、ミシミシと木の軋む音が観客を上下左右立体的に取り囲んでゾクリとさせる。強烈な音圧で鼓膜を苛めた直後の静寂、それが不快な耳鳴りを呼ぶ。これらサウンド・ワークを体感できるという点では、映画館に足を運ぶ価値のある作品だろう。
 婆さんのドロドロや奇怪な右目、肌に突き刺さるステープラーなどで嫌悪感を生む美術、シャープな撮影・編集もなかなかのもの。
 それと、あらためて多民族国家アメリカの“得体の知れなさ”も感じさせてくれる。メキシカン・ヒスパニックやロマのマジャル語が「こういうことが起こっても不思議じゃないよな」と思わせるのだ。

 そんなわけで作りとしてはシッカリしているのだが、だからこそ余計に、どんでん返しを期待すると“スカされる”のである。

 ただ、これはオチもの・どんでん返しものではないと、好意的に見れば、いろいろと興味深いところが浮かび上がってくる。

 たとえば、僕らの生活との距離感。出世欲とか、そのためには手段を選ばない姿勢、こんな婆さん胡散臭くてマトモに相手してられないよという親近感、追い詰められて姿を現す自分の本性、でも他人を不幸へ突き落とすことに覚える後ろめたさ……。
 それらは誰の心にもあるもの。どこにでもいるハエが不吉の前兆になるという設定や、生活感たっぷりのクリスティンの部屋を作り出した美術も、恐怖を身近なところに置くための配慮だろう。
 つまり本作は観客に対して「あんただって、ちょっとした不親切や現代的営利主義の代償として、呪いをかけられることがあるかもよ」という恐怖を与えようとしたわけだ。
 駐車場とか倉庫とか葬式とか墓場とか、アクション・シーンが“笑える”こともポイント。いやもう、すごいノリですよ。実際サム・ライミは狙って笑わそうとしたらしく、その脱力感が、観る者をますます無責任な立場へと追いやっていくような感覚。

 アリソン・ローマンは周りの出来事への感覚が麻痺しているというか、緊迫感の欠片もない芝居だけれど、これなんかまさしく、ノホホンと暮らす無感覚現代人を映す鏡。が、いざとなったら狂気で身体を満たし、雨の中で猛り吠える。その姿に、僕らってそういう(ふだんはゼロだけれどキレるときには100のテンションでキレる)生き物かも、と思ってしまう。
 ジャスティン・ロングも「とっつぁん坊や」で学者に見えず、ミスキャストにも感じるのだが、だいたい恋する男って、こんなふうに本質的には役立たずなのかも知れない。
 そこへポンと投じられる、ガーナッシュ夫人役のローナ・レイヴァーと、老霊媒師ショーン・サン・デナ役のアドリアナ・バラーザの怪演。若者ふたりの無責任感と、お婆さん&オバサンの鬼気迫るオドロオドロしさ、その対比がまた「なんてことのない日常と表裏一体の怪奇」を感じさせる。
 あと、ガーナッシュ夫人の孫娘を演じたボヤナ・ノヴァコヴィッチが不必要に可愛いのも、そっちへ気をそらせる狙いだろうか。

 と、本作を「どんでん返しものではなく、呪いをかけられる可能性への恐怖を煽る映画」と捉えてみたが、やっぱり、ちょっと期待ハズレだったなという感想が残る作品である。

|

« アルファ・ドッグ 破滅へのカウントダウン | トップページ | この道は母へとつづく »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: スペル:

» 「スペル」怖いと笑いは紙一重、劇場で体験したい [soramove]
「スペル」★★★★ アリソン・ローマン、ジャスティン・ロング、デヴィッド・ペイマー出演 サム・ライミ監督、96分 、2009年、2009-11-6公開                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← スパイダーマンシリーズの監督ですっかり巨匠の風格の サム・ライミ監督、だけど「死霊のはらわた」が原点、 期待して劇場へ。 「銀行の融資窓口で働く クリスティン(アリ... [続きを読む]

受信: 2009/11/19 07:37

« アルファ・ドッグ 破滅へのカウントダウン | トップページ | この道は母へとつづく »