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2009/12/19

ICHI

監督:曽利文彦
出演:綾瀬はるか/中村獅童/窪塚洋介/利重剛/島綾佑/竹内力/佐田真由美/杉本哲太/横山めぐみ/渡辺えり/山下徹大/斎藤歩/手塚とおる/土屋久美子/柄本明/大沢たかお

30点満点中16点=監3/話2/出4/芸4/技3

【盲目の達人と剣を抜けない達人】
 三味線を背に、ある男を探して旅を続ける市。彼女は瞽女(ごぜ)と呼ばれる盲目の旅芸人だ。とある宿場町、市は絡んできたチンピラを仕込み杖で鮮やかに斬り捨てる。それを浪人・藤平十馬の仕事と勘違いした白河組の虎次は、十馬を用心棒として迎える。町に巣食う万鬼党と対抗しようというのだ。十馬自身も腕の立つ侍だったが、ある哀しい事件がきっかけで剣を抜けぬ身になっていた。やがて万鬼党が本格的に町へ乗り込んできた日……。
(2008年 日本)

【面白みに欠ける仕上がり】
 たとえば、瞽女の暮らしぶり、市の生い立ち、彼女が聴覚を頼りにさまざまな情報を得ていることを示す賭場のシーン、市の耳の鋭さに万鬼が気づくくだりなどは、説明的でありながら“説明”と感じさせない、なかなか上手い撮りかた。
 カラフルな万鬼党、地味な白河組、ボロ布の市といった衣装の使い分けが目に楽しく、やや不似合いに思えるリサ・ジェラルドの音楽もクライマックスでは美しい。庄内映画村の宿場町も力を発揮。美術面での引っかかりは、いかにも造りました的な万鬼の顔くらいか。

 もっと寄ってもいいよなぁと思えるところでもサラリと流すし、奇をてらったカットや作りの衝撃などはないが、全体として愚直に、真面目に撮られている印象だ。

 キャストも、まずまず頑張っている。綾瀬はるかは愛くるしさを封印し、シャープな顔立ちと柔らかく引き締めた唇で、市という役柄に説得力を持たせている。大沢たかおは、変にカッコをつけない実直で悩める剣士がお似合いだ。中村獅童は、もうさんざんやってきたような役割だけれど、それだけに安定感がある。窪塚洋介の棒読みを打ち消す、いい配役だろう。

 ただ、見せ場であるはずの殺陣にバリエーションが少なく、スローで誤魔化してしまっている点が、なんとも痛い。夜道でチンピラを斬り捨てる場面なんか、コントに思えるほど迫力がない。
 万鬼党と白河組の戦力差・実力差が上手く伝わってこないからクライマックスにはスリルがないし、十馬の腕が立つという事実描写にも説得力がないため万鬼との決闘はウダウダっという感じでケリがつく。
 これだけ頭数がいるんだから、各悪党・各武器の個性を生かした殺陣があってもよかったはず。細かくカットを畳み掛け、スローに頼らず速さと重さと痛さを感じさせる絵作りもするべきだった。

 ストーリーも、一応のまとまりはいいが、消化不良で、キャラクター配置は定型的で、やや安っぽい時代劇コミックのようなノリ。
 せっかく主人公を女性にし、離れ瞽女という特殊な立場を盛り込んでいるのだ。そこから派生する“他人を信用できぬ哀しみ”をもっとクローズアップするべきだったろうし、探し人への想いももっと掘り下げられたはず。剣を抜けない十馬の葛藤だって、まだまだ描けただろう。

 トータルとして、真面目なんだけれどバンっというパンチや深みや面白みに欠ける仕上がりで、観終えた後に「あそこが」とか「この場面が」といった話が出てこない作品だといえる。

 まとめれば、例によって「綾瀬はるかをオレにくれっ!」という映画。

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投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2009/12/21 09:33

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