ジャージの二人
監督:中村義洋
出演:堺雅人/鮎川誠/水野美紀/田中あさみ/ダンカン/桑名里瑛/大楠道代
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3
【父と息子、ジャージで過ごす夏】
群馬県の山間、森とレタス畑だけが広がるところ。プロパンガスで炊かれる五右衛門風呂、布団は湿り、携帯電話の電波は届かず、部屋には毎晩カマドウマが飛び、林道にはときどきイノシシが出没。そんなオンボロ別荘に今夏もやって来たふたり。父54歳、グラビアカメラマン。息子32歳、無職で妻は浮気中。祖母がどこかから集めてきたという小学校の古着ジャージに着替えたふたりは、ゆるぅ~くゆるぅ~く、夏を過ごす。
(2008年 日本)
【気持ちに幅をね】
ひたすら、ゆるぅ~い時間が流れる。ひとつの言葉からそれに対するリアクションまでに、たっぷりとした“間(ま)”。描かれる会話やモノゴトもゆるゆる、カメラワークや編集やサントラもゆったり。
小説、それも純文学を映画化する意味や意義があるとするなら、これはもう“間”を作ることだけ。「読む」という行為・作業では明確に体感することの難しい、その作品世界に流れる時間を、どうカタチにするか。
その点でこの映画は、ワケありの父とワケありの息子の間にあるフワフワユルユルモタモタした空気と時間をしっかり描いていて、正しいベクトルで作られていると思う。
ただし、まだちょっと見せすぎ。ケータイのアンテナとかトマトが詰まった袋とかテロップで処理される人物紹介&時制とか、そのあたりは省いてしまってもよかったんじゃないか。もっともっとゆるぅ~りと撮って、観る人にフワリと投げつけて「それぞれ背景や状況は想像・解釈してね」という作りのほうが、この作品にはふさわしい。
たとえば、岡田さん。ケータイを手にソワソワして、朝もやの中で叫ぶ。それ以上は岡田さんの近くに寄らない。父や息子に対しても、それくらいの距離感で接することに徹するべきだったんじゃないだろうか。
なにしろ、なぁんも起きず、なぁんも変わらず、劇的なことといえば迷子になるかイノシシか、くらいなんだから。
ちっちゃな疑問にはちっちゃな理由がある、ちっちゃな人にはちっちゃな秘密がある、ちっちゃな関係にはちっちゃな幸せがある、誰もが過去を抱えていて、いま現在も問題を抱えながら生きていて、だからといってどうにかしようというポジティヴさもない、そういう、ゆるぅ~い世界なんだから。
この山荘に来たって、生活や心がリセットされるわけじゃない。大切なものに気づいたりもしない。遠ざけたいはずの外界とのつながりを、ついつい求めてしまったりもする。
何かを得られたとすればそれは「気持ちに幅をね」という、やっぱりゆるゆるな教訓だけ。
そんな、どーしようもない人たちの、どーってことない時間なんだから、腹をくくって“ゆるぅ~り”に徹すればいい。
歩幅だけで感情を表現してしまう堺雅人、ナチュラルに得体の知れない親父さんを演じる鮎川誠のふたりなら、その“ゆるぅ~り”を、魅力たっぷりに提示できるはず。田中あさみちゃんの可愛さも、そこにポンと放り込まれることでもっと輝きを増すんじゃなかろうか。
でもまぁ、現状でも十分に心地よい“ゆるぅ~り”なんだけれど。
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