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2009/12/12

カールじいさんの空飛ぶ家

監督:ピート・ドクター/ボブ・ピーターソン(共同監督)
声の出演:エドワード・アズナー/ジョーダン・ナガイ/クリストファー・プラマー/ボブ・ピーターソン/デルロイ・リンドー/ジェローム・ランフト/ジョン・ラッツェンバーガー/エリー・ドクター/ジェレミー・レアリー/デビッド・ケイ/ダニー・マン
吹き替え:飯塚昭三/立川大樹/大木民夫/松本保典/大塚芳忠/檀臣幸/高木渉/楠見尚己/松元環季/吉永拓斗

30点満点中21点=監4/話4/出4/芸4/技5

【そしておじいさんは、空を飛ぶ】
 冒険家マンツに憧れる少年カール・フレドリクセンは、廃屋で出会った少女エリーと「いつか南米にある“パラダイスの滝”へ行こう」と誓い合う。やがてふたりは結婚、カールは風船売り、エリーは動物園ガイドとして働きながら睦まじく約60年をともに過ごした。コツコツと貯めたお金でいよいよ南米への夢が叶おうかというとき、エリーが病に倒れる。ひとり残されたカールも、想い出の詰まった家から立ち退くことを迫られるのだが……。
(2009年 アメリカ アニメ)

【3D映像の楽しさを体感】
 初めてデジタル3D(XpanD方式)で鑑賞。もちろんTDLやUSJでは立体映像を経験済みなんだが、90分の長編、アニメの王道たるディズニー/ピクサー作品の中で“飛び出す”という機能はどんな効果を生むんだろうか?
 何本かの予告編(バートンの『アリス・イン・ワンダーランド』とか)ではまだ半信半疑。けれど併映の短編『晴れ ときどき くもり』と、それに続く本編で、3Dの威力は鮮明になる。

 空間の奥行き感・立体感が増すのは当然として、むしろ感嘆したのは高さや嵐に吹かれるブワリ感など“浮いている”イメージがダイレクトに伝わってくること。下半身がキュンっ。
 3Dで楽しいのは浮遊感だ、という確信からこの題材(浮かぶ家)を選んだのだとしたら、その選択はまさに大正解だ。

 また、単に「奥に背景、その手前に人やモノ、ただしそれぞれは平面」という“飛び出す絵本”的なものではなく、オブジェクトそのものが立体的に表現されている。重層的というより奥行き方向に無段階的な空間構成だ。テーマパークのように「とにかくビュンビュン飛び出させちゃえ」という乱暴さがないのもいい。
 あくまで映画内世界にリアリティを与えること、それによって観客に親近感を抱いてもらうことを目的に3Dが使われている印象。派手さだけを求めての“やりすぎ”にはなっていないのだ。

 ピクサー作品は、もともと空間や人・モノを立体的に描いている。それを最新技術の力でちょっと後押し、といったところか。で、いったんその3D世界に放り込まれて「確かに立体だ!」と感じたら、そこから先は「実はそれほど3Dじゃない」場面も脳内では立体的に感じてしまう、というのが面白い。
 音響効果との連携(画面の外に飛んでいったもののSEが後方から聴こえるとか)も、3Dでより楽しくなった。

 ただ問題もあって、空間のいちばん手前でキャラクターが速い動きをすると、その立体描写がちょっと厳しそう(観る側の焦点調節が追いつかないのかも知れない)。3D専用メガネのせいで、明るさも少し落ちる(あらかじめ明るめに映写しているとは思うが)。
 当方のようなメガネ常用者はMyメガネon専用メガネとなって、フィット感はイマイチ。クリップオン式の普及を望みたいところだ。

 そうした「3D映画全般のウィークポイント」を別にすれば、ピクサー初のディズニー・デジタル3-D作品にも関わらず、どんな題材をどう料理すれば効果的かという勘所をしっかりと押さえていて、3D映画として高い完成度を見せてくれているといえる。恐らく『トイ・ストーリー』の3D化を通じて、いろいろとノウハウを蓄積したんだろう。
 いや、もっと前から「3Dへの道」は始まっていたのかも知れない。スタッフロールでは、本作に直接関わっていないであろうピクサー社員の名前もズラリと並べられる。その点からも、本作がピクサーの歴史と総合力の産物であると読み取れる。

★ここからは、ややネタバレを含みます★

【冒険は、そこにある!】
 で、やっと映画本編について。
 泣きましたよ。ええ、映画館で嗚咽を漏らしましたとも。

 まず、感情移入を誘うテクニックが憎らしい。冒頭、ニュースを映画館で観る登場人物たちを後ろからうつして、スクリーン内空間と、いまこの『カールじいさんの空飛ぶ家』を観ている人たちとを一体化させる。主人公にはメガネとゴーグルを装着させ、3Dメガネをかけている観客とシンクロさせる。カールが思わず作業員を殴ってしまうシーンでは、身につまされて心が痛くなる。

 この序盤には、いきなりの第一クライマックスが用意されている。カールとエリーの日々を見せるパートが、とてつもなくいい。夢あふれる普通の夫婦の普通の(けれどちょっと哀しい)人生が、流麗な音楽とともに、いっさいセリフなしという手法で紡がれる(『オトナ帝国の逆襲』におけるヒロシの人生を思い出した)。実に映画的なシークェンスだ。
 濃密で、けれど上手に省略もされているこの部分が、後で効いてくることになる。

 以後のストーリーは、スポンと南米まで飛んだり、しんみりがあるかと思えばアトラクション的な大スペクタクルもあって、まったく飽きさせずに進む。そのいっぽう、送風機や犬やバッジやテニスボール杖といった伏線アイテムをきっちり回収してみせて、歴代ピクサー作品の中でも上位の“スッキリとしたまとまり”を示す。
 唯一気になったのが、鳥であるケヴィンの好物がチョコであること。たいていの鳥類にとってチョコは有毒なはずで、「これを観た子どもたちが公園や動物園で鳥にチョコを与えなければいいけれど」と心配になった。

 お話という骨格だけでなく、そこに施される美術面・技術面などの肉付けも見事だ。
 カメラが世界へ潜り込むような画面構成は「リスだっ!……」、3D映画の魅力をさらに引き立てるのに寄与している。
 華やかな色彩感覚、緻密な背景美術、その場感たっぷりの照明使い、慣性まで再現したキャラクターの動かしかたなど、ピクサー作品における「アニメとしての素晴らしさ」は相変わらずハイクォリティ。壁のコンセントの周りにはプラグを挿し込む際にできたであろう傷が見えたりして、本当に細かなところまで描き込まれているなぁと感心させられる。
 折り目までリアルに描画された布、単純な黒じゃないカールのメガネ、ガラス越し/ガラスに映った姿など、各質感も実にそれっぽい。

 抜群のアクションと質感、そしてシンプルなラインで創られるのは、愛らしい人間や動物たち(とりわけダグがラブリー)。シルエットと動きと表情だけで「どんな道を歩んできたどんなキャラクターか」をわからせてしまうデザインセンスが凄い。
 今回は日本語吹き替え版で観たのだが、飯塚昭三、大木民夫の大ベテランふたりがどっかりと中心に座り、松本保典、高木渉といった芸達者が場を和ませ、そこへ立川大樹君が快活に突っ込んでいくというアンサンブルが楽しい。子どもの頃のエリーを演じた松元環季も、かなり上手い(こうした日本語版の作りの確かさはディズニーの伝統だろう)。

 そして第二のクライマックスへ。カールがエリーの「冒険ブック」をめくっていくくだりは、もうわかっていても号泣してしまう。

 本作の直前に観たのが『きみに読む物語』。あちらは燃えるような恋愛と老齢期との間を大胆にすっ飛ばして、その部分を観客の実体験や将来への展望で補完してもらうような作りだった。いっぽう本作は、カールにとっても観客にとっても第一クライマックスが「カールとエリーの人生の記憶」となり、それを第二クライマックスで鮮やかに思い出すという構造で、ふたりの歩みが確かにあったこと、エリーという妻がいたことを、カールと観客とが強烈に実感する、という作り。
 手法は異なるが、いずれも、あふれるほどの“あの時間への愛おしさ”を喚起する点で共通している。

 また、つい1週間前に観た『ワン・デイ・イン・ヨーロッパ』では「ここに来るまでの景色を写したデジカメを盗まれた」と訴える巡礼者に対して、警官が「本当に大切なのはデジカメに残された記録ではなく、この聖地まで歩いてきた過程だろう」と諭す場面があった。
 本作でもカールは当初、エリーと作ったポストを愛し、ふたりが長い時間を過ごしたイスを愛する。だが最後には、ふたりが小銭を貯めるために使ったビンも含めて「形ある想い出の品」を手放してしまう。

 そもそも過程や記憶や想い出とは何なのだろうか? 実は幼いラッセルですら、その問いに対する答え(につながるヒント)を持っている。
「つまらないことばかり覚えているんだ」
 そういうものなのだ。
 いつまでも心に貼りついている、何気ない一瞬、たいして意味のない出来事……。それらは確かにあった。その時間・経験を君と共有した。積み重ねてきた人生は、決して消えることはない。写真やポストやイスは、それらの事実を記憶や想い出として蘇らせるトリガーにしか過ぎないはずだ。

 エリーはカールに「新しい冒険を」という言葉を遺す。
 未知なるものを発見することが冒険ならば、生きていくことそのものが冒険といえるだろう。生きて、何気ない一瞬とたいして意味のない出来事を積み重ねていくことが。
 エリーの遺言は「過去を振り返るのではなく、新しい人生を」と、カールに前進を促すものに他ならない。
 冒険は、そこにある!

 大切なのは「約束を果たすこと」ではなく「絶対に守りたいと思える約束をした」こと。泣きながら、もっともっと日々の冒険を「リスだっ!……」大切にしようと、そんなふうに思わせてくれる映画である。

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「カールじいさんの空飛ぶ家」★★★★オススメ ディズニー/ピクサー製作 ピート・ドクター監督、103分 、公開日:2009-12-5、2009年、アメリカ                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 12月6日公開オープニング2日間の成績は、動員44万人、興収約6億円と、 初登場首位を獲得! 「2012」のオープニングにも負けない出足。 興収50億円が当面の目標... [続きを読む]

受信: 2009/12/16 00:49

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