« 笑う大天使(ミカエル) | トップページ | ジャージの二人 »

2009/12/23

ブタがいた教室

監督:前田哲
出演:妻夫木聡/大杉漣/田畑智子/池田成志/清水ゆみ/ピエール瀧/近藤良平/大沢逸美/戸田菜穂/原田美枝子

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3

【命の授業】
 6年2組の担任となった新任教師の星は、1頭の子ブタを教室へと持ち込んで生徒たちに提案する。「このブタを1年間飼って、最後には食べたいと思います」。子ブタの可愛さに賛成した26人は、小屋を建て、子ブタにPちゃんと名づけ、残飯を持ち寄り、糞を掃除し、ブラッシングもし、いっしょにサッカーで遊び……と、懸命に世話を続ける。卒業の日が近づき「Pちゃんをどうするか?」という議論を26人は交わすことになる。
(2008年 日本)

【大切なことを伝えたい】
 『いのちの食べかた』と対で語られることも多いようだが、単に食育の映画ではなく、「あなたなら食べますか?」と問うものでもなく、もっと向こうを見ている映画だと感じる。

 作りとしては、洗練されているわけでも映画的でもない。ただ「この映画でやらなければならないこと」と真剣に対峙していることはわかる。
 子役たちにはセリフも結末も書かれていない脚本が渡され、実際に自分で考え、自分の言葉で議論してもらったという。ブタの飼育も本当に経験したらしい。そのせいもあって、幾度かおこなわれる議論は、拙い言葉ながらリアリティに満ちている。それをカメラは、素直に捉える。

 つまり「生きるうえで本当に大切なことを伝えたい」という想いをしっかり形にしようとした、そんな映画となっているのだ。
 単に食べる食べないではなく「自分の目と鼻と肌で経験し、自分の頭で最後まで考える」ことの尊さを説く映画となっているのだ。

 その製作ベクトルに、6年2組が応える。
 賢しさと無邪気さとを併せ持つ子どもが描かれる。笑いながら議論する姿も捉えられる。でもたぶん彼ら彼女らは、いま向き合っている“ことの重大さ”を認識している。そして(だから)、逃げない。
 結論の先送りを常套手段とする大人に対し、自分たちに与えられた責任をまっとうしようとする子どもたちは、なんて立派なんだろう。結論を出し、3年生に頭を下げる6年生は、なんて頼もしいんだろう。
 そうやってこの映画は僕ら大人に「どれだけ多くのことに目をつぶって生きているか」を思い知らせる。

 幸いにもこの映画に登場する大人=星先生や校長先生は、真正面から子どもたちの想いを受け止めようとする。子どもたちに「自分の頭で最後まで考えさせる」ことは確かに大切だけれど、だからといって子どもたちにすべての責任を押しつけてはいけない、そう覚悟を決めている。
 教室の後ろにズラリと貼られた画用紙。これまで映画で観た中で、こんなにも重いものはなかった。その重さは、子を産み育てる大人が負うべきものであるはずだ。
 背負うだけの覚悟があるか、子を育てることの難しさを理解しているか、子どもを信じられるか、子を育てる自分自身を信じられるか、そう問いかける映画であるともいえるだろう。

 何か大切なことを学ぶとき、家庭に会話が生まれることが示される。すべての家庭はこうあるべきとの想いが見える。
 卒業式で歌われる『smile again』(作詞・作曲/中山真理)の歌詞のように、ひとつ考え、ひとつ学んで、ひとつ強くなる、そんなふうに子どもたちが育つ世界であって欲しいという想いが見える。
 さまざまな想いを感じ取ることのできる映画である。

●6年2組
甘利はるな/東圭太/池田彩由佳/石井千也/石川すみれ/伊東奈月/鵜木伸哉/大和田結衣/大倉裕真/小川美月/岡駿斗/柚りし菓/緒方博紀/金子海音/柿澤司/斉藤みのり/影山樹生弥/櫻木麻衣羅/樺澤力也/桜あずき/北村匠海/新川奈々/寺田英永/夏居瑠奈/向江流架/松原菜野花

|

« 笑う大天使(ミカエル) | トップページ | ジャージの二人 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ブタがいた教室:

« 笑う大天使(ミカエル) | トップページ | ジャージの二人 »