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2009/12/26

アバター

監督:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン/スティーヴン・ラング/ミシェル・ロドリゲス/ジョヴァンニ・リビシ/ジョエル・ムーア/シガーニー・ウィーヴァー(以上人間サイド)/ゾーイ・サルダナ/CCH・パウンダー/ウェス・ステューディ/ラズ・アロンソ(以上ナヴィサイド)

30点満点中21点=監4/話3/出4/芸4/技6

【未知の世界パンドラで、ナヴィとアバターが翔る】
 22世紀、惑星ポリフェマスの衛星パンドラは緑に覆われた星。ここで地球人は超伝導性鉱石アンオブタニウムの採掘計画を進めていたが、先住民ナヴィの抵抗に遭っていた。車イスの元海兵隊員ジェイク・サリーは、急死した双子の兄トミーに代わってパンドラへ飛ぶ。トミーとナヴィの遺伝子情報から造られた“アバター”とリンクし、ナヴィの中に潜り込むのが彼の任務だ。肉体の自由を得たジェイクはナヴィの娘ネイティリと出逢い……。
(2009年 アメリカ/イギリス)

【3D映画の最前線】
 レストランから料理を持ち帰り、冷えたものを食べても、味の評価などできないのは当たり前。本作に関しても、2Dで観た人の感想などアテにならないと考えたほうがいい。
 これは「3Dでも上映している映画」ではなく、ハナっから“それ”用に作られたもの。大スクリーン+3Dで観てナンボという作品だ。

 デジタル3Dトータルの感想・印象については『カールじいさんの空飛ぶ家』で述べた通り。いわゆる“飛び出す絵本”ではなく、オブジェクトそのものの立体感、浮遊感、奥行き方向に無段階的な空間構成を感じられることが最大の特徴だ。

 ナヴィやアバター、ダイアホース(馬型生物)などの造形を、筋肉構造までわかるくらい近距離から捉えて、人・動物やモノじたいを立体的に感じさせてくれるのが楽しい。
 また、「ふわっ」と浮いている感覚、「ぎゅんっ」と飛ぶ感覚が絶品。その楽しさを創出すべく、パンドラは、大きくそびえる木、宙に浮かぶ山、飛び交うバンシーなど、縦方向への広がりを強く意識して設計されている(ちなみに字幕も画面に浮いているような感じ)。

 いっぽう地上の場面では、ブリーフィング、ナヴィたちがエイワと交信する儀式など「人の向こうに人」という画面構成を多用、意識的に奥行き方向への広がりを作り出している。草や木やツルが入り組んで茂る、つまり空間そのものが立体的な森という舞台を用意したのも正解。ガラスの「こちら」と「向こう」がハッキリ体感できるのもいい。
 背景から人やモノが飛び出すのではなく、手前から奥、奥から手前と空間が続いていることを実感できるレイアウト。それによって3Dの強みを引き出しているわけである。

 こうして“実体ある広がり”を作り上げた後、一人称視点など大胆な構図も用いながら“カメラを持ってそこへ潜り込む”という見せかたが徹底される。キャッチコピーの「観るのではない。そこにいるのだ。」にも納得の仕上がり。滝つぼに飛び込むシーンなど、なんど下半身が“きゅうっ”としたことか。火の粉や虫を、なんど手で振り払おうとしたことか。

 パンドラのヴィジュアル・イメージが生き生きとスクリーン上に広がるのは、何も3Dの力のせいばかりではない。
 AMPスーツ(パワードスーツ)が歩くと股関節の継ぎ目が軋み、マスクを外すと地面に置かれた酸素フィルターもコトリと揺れる。その描き込みの細かさに感心させられる。飛竜レオノプテリクスの脚の皮膚の突っ張り感やナヴィの肌などテクスチュアも極上。ガジェットではコールドスリープ装置や取り外し・持ち運びできるディスプレイが、実にそれっぽい。
 TVの予告編では「いかにもCG」的な質感が気になったが、劇場ではほとんど違和感なく、実写部分との馴染みかたも良質。人間世界とナヴィたちの世界が「ちょっと違うものとして併存している」という雰囲気がよく出ている。

 キャストでは、ネイティリ=ゾーイ・サルダナに尽きるだろう。くちびるや歯などのなまめかしさ、“見る”よりも“見つめる”という表現を使いたくなる視線、ボディラインと動きの滑らかさ……。
 確かに異種だが人類が好きになってもおかしくない、という微妙なデザインともあいまって、実に魅力的なキャラクターとして存在する。主人公がバカ(いや、サム・ワーシントンはそれなりに頑張っているけれど)なことを補い、ストーリー展開に説得力を持たせるのに十分な描かれかただ。
 スティーヴン・ラングの堅い英語によって大佐の悪党ぶりは加算され、ミシェル・ロドリゲスのオトコマエっぷりも素敵。シガーニー・ウィーヴァーのアバターが彼女にしか見えないのも嬉しい。

 シナリオは、ド説明+ナレーション多すぎ、枝葉もふくらみもない直球展開で褒められたものではない。が、自然保護、『ニュー・ワールド』を思わせる「先住民vs侵略者」ストーリー、星野之宣やら士郎正宗やら、さまざまなものがゴッタ煮、さながら“エコロジカル・サイバーパンク”とも呼ぶべき世界が作られていて、嫌いじゃない。観客の脳の処理能力を映像方面にまわしてもらうことを考えれば、これくらいシンプルでちょうどいいのではないだろうか。
 むしろ安っぽいものから壮大なもの、先住民族っぽいものまで振り幅が大きすぎてパンドラ世界とのマッチングを薄れさせてしまっているサウンドトラックと、「やっぱ腰痛持ちに2時間40分は長いよなぁ」という点がマイナス材料だ。

 で、ネット世界ではすでにお馴染みの「アバター」という言葉。サンスクリット語で「この世に現れた神仏の化身」というから、大層な語源だ。
 でも、その大仰さに負けないスケールを持つ映画であることは確か。「これが今後の映画の基準になると思うんだけれど、どう?」と大風呂敷を広げて問うだけの力量をキャメロンが持っていることも実感できる。
 さすがに本作そのものを神と呼ぶ気はないし、映画鑑賞というよりアトラクション体験というイメージも強いけれど、いままさに進みつつある「映画の3D化」という流れの最前線を、真正面から楽しめる作品である。

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