容疑者Xの献身
監督:西谷弘
出演:福山雅治/柴咲コウ/北村一輝/金澤美穂/ダンカン/長塚圭史/益岡徹/林泰文/渡辺いっけい/真矢みき/松雪泰子/堤真一
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3
【天才物理学者と天才数学者、その友情と破壊】
弁当店を経営する花岡靖子は、しつこくつきまとってくる元夫の富樫を娘の美里とともに殺害する。警察の捜査は花岡母子に及ぶが、アリバイを崩せないでいた。花岡家の隣人で高校の数学教師・石神哲哉が、巧みな隠蔽工作をおこなったせいだ。刑事の内海は物理学者の湯川学に助けを請うものの、湯川は興味を示さない。しかし、彼が天才と認める数少ない人物=石神が事件に関わっていると知り、湯川は久しぶりに石神を訪ねるのだった。
(2008年 日本)
【TVの2時間スペシャルなら】
連続TVドラマがコンビニで売られる380円の弁当、しっかり作られた映画が中身にも器にもこだわった料亭の松花堂弁当だとするなら、本作はまさしく「個人経営店の600円弁当」といったところだ。
つまり、TVよりちょっと上等、という程度。
殺害シーンは奇をてらわない真っ向からの描きかたで、下手に凝るよりも相当にリアルだ。湯川と石神が対峙する場面の空気感、石神の部屋、雪山の様子なども、まずまず以上のデキ、丁寧に撮られていることがわかる。
が、レンズ、画角、カメラと対象との距離についてのバリエーションは全体として少なく、サウンドトラックは軽めに終始し、絵作りは陰影にも立体感にも乏しい。いかにもTV的・平面的な仕上がり。石神が恋をしていることに湯川が気づくくだりも、フワっと流してしまっている。
ストーリー的には、どうか。トリックは、半分くらいは途中で気づいてしまうけれど、まずは及第点。上司には命じられて渋々コーヒーを淹れる内海が湯川には自分から用意するなど、面白い場面もある。
が、やはり不足は多い。
石神の歪みや失意、母子と出会ってからの再生は、もっとこってりと語ってもよかったはず。友人だと感じていた石神に「友達はいない」といわれた湯川の哀しさも十分に出ているとはいいがたい。娘・美里が石神を頼もしく感じる描写もあってよかったはずだ。
つまり、作りとしても内容としても、頑張っているところと力の及ばなかったところがハッキリしているのだ。
そもそもガリレオ・シリーズって、「ありえない」といいつつ、大胆かつ科学的な着想や大規模な実験から天才物理学者がトリックを解き明かしていく、というのが基本スタイル。その中にあって本作は、物理学/実験がテーマとならない特殊なエピソードとなっている。ってことは、別に物理学者が探偵役でなくてもよかったわけだ。
いや、湯川を主人公に据えた“キャラクター映画”にならざるを得なかったのは仕方ない。ならばせめて「天才」という部分には鋭く斬り込み、天才ゆえの友情、天才ゆえの苦悩、天才ゆえの献身、それらの破壊……といった心理面に重きを置いた話としての脚色・まとめが必要だったはず。それが、どうも中途半端。
たとえば、湯川は論理的側面からアドバイスする役割に徹し、実際に謎を解き明かしていくのは人間の情・心理を重く見る内海、そうして現れた真相に戸惑う湯川、くらいに飛躍してもよかったんじゃないだろうか。
もちろん、湯川というキャラクターにこだわらず、TVシリーズから離れて1本の映画として完結した内容を目指す道もあっただろう。
低く感情を押し殺し、最後に咆哮する、石神=堤真一は上々だ。珍しく普通の女性を演じた松雪泰子も、新たな魅力を見せてくれた。
このゲスト・キャラふたりが輝いているから、余計に湯川や内海の立ち位置が不安定というか、「この物語の探偵役としては、ちょっと動機の描写や心情の揺れが足りないだろう」と感じてしまう。
TVの2時間スペシャルだったならそこそこ評価できただろう。が、映画として見ると、数々の不足や製作ベクトルの甘さに引っかかりを覚えてしまう作品である。
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