つみきのいえ
監督:加藤久仁生
30点満点中20点=監4/話4/出3/芸5/技4
【積み上げられてきた想い出】
水に沈んだ町、ポッカリと浮かぶ小さな家。ここに暮らすのは、もう背中も曲がってしまったおじいさんがひとり。水面が上がるたび、家の上に家を積み重ねて今日までやってきたのだ。楽しみは、釣りとワインとテレビとパイプ。ところが、何度目かの“積み重ね”がすみ、上に引っ越そうとしたその日、おじいさんは愛用のパイプをうっかり水に落としてしまう。船でやって来る何でも屋からパイプを買おうとするおじいさんだったが……。
(2008年 日本 アニメ)
【粒揃いの中のウィナー】
家の内外に固定されたカメラで、やや遠めから場面を捉えるようなレイアウト、家族の中へと入っていくようなことはない。見守り視線とでもいおうか。その画面構成と、魚や鳥のカットをポンと挿入してリズムを作る演出、過去と現在との歯切れよいつながり、近藤研二によるヨーロピアンな音楽とがあいまって、どこか「短館上映の(よくできた)フランス映画」的な、不思議な雰囲気が作り出されている。
とはいえアニメーションとしての上手さ・素晴らしさも多く感じられる。絹目の紙にクレパスで描いたような、温かみのある絵。紗のかかった撮影とパースを無視した作画によってもたらされる、優しい空気。光、水、夜の表現も上質だ。
お話としてはワン・アイディアものなのだが、その“ワン”の中に、人の生がぎゅっと凝縮されている。
家の中に、心の中に、少しずつ確実に刻まれていく出来事。それらを大切にすると同時に、人生において捨てていったものも多かったのだろうな、本当に必要なものだけが手もとに残されていったのだろうな、と、おじいさんの生きざまを思わせて、ジワリ涙を誘う。
まさに「時間と想い出を積み重ねていく」ものとしての人生を、実に鮮やかに表現した作品だ。
2009年のオスカー・ウィナーであるわけだが、この年にノミネートされていた短編アニメは実に粒揃いだった。
『Ubornaya istoriya(LAVATORY LOVE STORY)』ロシア
『Oktapodi』フランス
『マジシャン・プレスト』アメリカ
『This Way Up』イギリス
『Ubornaya istoriya(LAVATORY LOVE STORY)』は、シンプルなライン、ユーモラスなキャラクター、動きと音楽とのシンクロ、スラップスティックでハッピーなストーリーが楽しい。『Oktapodi』は、サントリーニ島を思わせる鮮やかな美術が素晴らしく、そこで奮闘するタコのカップルが愛らしい。スピード感とドタバタに満ちた『マジシャン・プレスト』、ブラック・ユーモアとにぎやかさで見せる『This Way Up』も傑作だ。
そして、本作を含めてノミネイテッド5本とも、セリフなし、「見せてわからせる」という作り(『Ubornaya istoriya』はラストで字幕が必要になるが)。本作では長澤まさみのナレーション入りヴァージョンも作られているものの、“ナシ”のほうがよほど味わい深く、心に迫る。
短編アニメは、世界中の誰もが言葉の壁を越えて楽しめる、そういう「真に映画的な作品」を生み出せる土壌ということなのだろう。
そんな中、まさに誰もが共感できる「生きていくということ」を、誰の心にも届くような形で、柔らかく温かく描いた本作は、やはり、ひときわ明るい輝きを放っているように思える。
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