ピクサー・ショート・フィルムス
30点満点中17点=監4/話2/出3/芸4/技4(平均)
【ピクサーによる短編アニメ集】
オスカー受賞作『WALL-E』や『レミーのおいしいレストラン』など楽しい映画を生み出し続けるピクサー・アニメーション・スタジオによる短編アニメ集。同社がまだルーカスフィルムの一部門で本格的に3DCGアニメーション映画を作り始める前の80年代から、最新の3D技術に挑んでいる2009年までに製作したショート・フィルム14本を鑑賞。
(1984~2009年 アメリカ アニメ)
【ピクサーの歴史を味わう】
名実とも世界ナンバー1の3DCGアニメーション製作スタジオといえるピクサー。その底力というか、「アニメって、こう作るものだよね」という気概や確固たる価値観を感じ取れる作品群だ。
●『アンドレとウォーリーB.の冒険』 1984年
かなりシンプルなモデルをシンプルに動かしている。デザインや色づかいに「絵本をそのまま動かした」的な雰囲気があり、またアニメーションというより“カートゥーン”と呼ぶべき遺伝子の存在も感じる。監督はピクサー創設メンバーのひとりで、あの『コスモス』でも仕事をするなどCGの黎明期から活躍している人物。13点。
原題:The Adventures of Andre & Wally B.
監督:アルヴィ・レイ・スミス
●『ルクソーJr.』 1986年
例の机上スタンドの親子がボールで遊ぶ作品。アカデミー賞短編アニメ部門にノミネートされている。もともとは3DCG描画ソフトのデモンストレーション用に作られたもののようだが、「単純なモノを擬人化とストーリーと演出とで生き生きと見せる」というピクサーらしさの萌芽が垣間見える。灯りの表現も見事。17点。
原題:Luxo Jr.
監督:ジョン・ラセター
●『レッズ・ドリーム』 1987年
一輪車の夢を描いた作品。こちらも照明の使いかたが見事。また3DCGによるジャグリングの表現は、何でもないように見えて実はかなり難しいはず。技術とセンスを感じる小品だ。16点。
原題:Red's Dream
監督:ジョン・ラセター
●『ティン・トイ』 1988年
アカデミー賞短編アニメ賞受賞作。赤ちゃんはちょっとグロテスクだけれど、キャラクターの表情・動きによる感情表現やスピード感の創出、共感できるストーリーなどは見事。17点。
原題:Tin Toy
監督:ジョン・ラセター
●『ニック・ナック』 1989年
水そのものの表現や浮遊感が素晴らしい。「あたふたして、何とか上手くやろうとすればするほど失敗」というピクサー・アニメの基本パターンであるストーリーの完成も楽しい。17点。
原題:Knick Knack
監督:ジョン・ラセター
●『ゲーリーじいさんのチェス』 1997年
オスカー受賞作。指を離した時にチェスの駒が微妙に揺れたり、イスの背をいちどつかみ損ねたりなど演出・表現の“細かさ”が憎らしい。背景美術の透明感も極上。オチの逆転劇にもう一工夫欲しかったが、いかにもショートストーリー的なまとまりはある。18点。
原題:Geri's Game
監督:ジャン・ピンカヴァ
●『フォー・ザ・バーズ』 2000年
オスカー受賞作。絶対に鳥を飼っている人がスタッフにいるか、相当に観察・研究したはず。電線をつかむ指、羽のふくらみ、隣の鳥とピーピー会話する様子などが実にリアル。笑いを誘うストーリーも楽しい。18点。
原題:For the Birds
監督:ラルフ・エグルストン
●『マイクとサリーの新車でGO!』 2002年
これは『モンスターズ・インク』のDVDにも入ってたっけ。子ども向けのシンプルなスラップスティックだが、ダッシュボードの陰やフレームの外など「見えないところでおこなわれていること」を感じさせる演出表現が出色だ。17点。
原題:Mike's New Car
監督:ピート・ドクター/ロジャー・グールド
●『バウンディン』 2004年
これは『Mr.インクレディブル』の併映で観たかな。「ものの見かたさえキチンとしていれば、浮き沈みなんか問題ない」と伝えるミュージカルでピクサーの短編としては異色作だろう。音・音楽と絵のシンクロ、立体的な空間の広がりと浮遊感が見事。17点。
原題:Boundin'
監督:バド・ラッキー/ロジャー・グールド
●『ジャック・ジャック・アタック!』 2005年
『Mr.インクレディブル』の“実は……”を描く作品。相変わらず照明の使いかたが素晴らしく、炎や肌、家具などの質感も上出来。話の途中をすっ飛ばしたり切り取ったりして笑いを誘うセンスも良。18点。
原題:Jack-Jack Attack
監督:ブラッド・バード
●『ワンマンバンド』 2005年
笑いと皮肉に、ちょっと哀しげな空気も混じったストーリー。音と絵のシンクロ、背景美術による鮮やかな世界創出、キャラクターの愛らしさ、カメラワークなど、技術と演出で楽しく描いた秀作だ。女の子が「それ!」とバイオリンを指差す場面の切れ味がいい。18点。
原題:One Man Band
監督:マーク・アンドリュース/アンドリュー・ヒメネス
●『メーターと恐怖の火の玉』 2006年
『カーズ』の番外編。キャラクターたちのトボけた味わい、展開のハッキリしたストーリー、色づかいや質感の鮮やかさ、ちょっとした動きに合わせて歪むタイヤなどの作画表現……。さまざまな要素がバランスよく整っている好作品。17点。
原題:Mater And The Ghostlight
監督:ジョン・ラセター/ダン・スキャンロン
●『リフテッド』 2007年
音楽や立体的なサウンドメイクを生かした演出が楽しい。監督はピクサー作品だけでなく『バックドラフト』『プライベートライアン』『X-メン』などのサウンドデザインを担当した人物と知って納得。17点。
原題:Lifted
監督:ゲイリー・リドシュトロム
●『晴れ ときどき くもり』 2009年
デジタル3Dで鑑賞。『カールじいさんの空飛ぶ家』で述べた通り、デジタル3Dは奥行き感とかモノが飛び出す楽しさはもちろん“浮かぶ”というイメージの創出にも威力を発揮するようだ。雲の質感も見事だし、雷や雨が発生するシステムを楽しく描いたストーリーも微笑ましい。17点。
原題:Partly Cloudy
監督:ピーター・ソーン
全作中、もっとも映画的で完成度も高いのは『ワンマンバンド』だろう。だが反面、アニメでなくとも表現できた題材にも思える。それは『ゲーリーじいさんのチェス』も同様だ。
そう考えるとやっぱりピクサーって、少なくとも2007年頃までは「長編でこそ本領が生きる」といえたのではないか。
が、『マジシャン・プレスト』や『BURN・E』を観る限り、最近はショートでもキラリ。今後もこれまで以上に楽しい「ショート・アニメーション・ムービー」を生み出していってくれることだろう。
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