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2010/01/10

秒速5センチメートル

監督:新海誠
声の出演:水橋研二/近藤好美/花村怜美/尾上綾華

30点満点中16点=監3/話2/出3/芸5/技3

【いつでも探してしまう】
 小学校の卒業式を最後に離れてしまった遠野貴樹と篠原明里。1年後、雪の中で電車を乗り継ぎ、貴樹は明里の住む町へ向かう……「桜花抄」。種子島に引っ越した貴樹、その視線はどこか遠くに注がれている。彼を見守るサーファーの澄田花苗は、波に乗れた日、貴樹に告白しようとする……「コスモナウト」。東京で就職した貴樹は、あの人を想いながら仕事に追われる。いっぽう明里は結婚を間近に控えていた……「秒速5センチメートル」。
(2007年 日本 アニメ)

【朗読劇+動く挿絵】
 美術に関しては間違いなく最高レベル。他の国産アニメはもちろん『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』あたりを確実に凌駕しているし、ピクサー作品と比べても遜色のない仕上がりだ。
 特に光の扱いは絶品で、夕陽、蛍光灯のチラつき、雨に曇る町、本の表紙のテカり、煙・蒸気の影まで細やかに描かれる。
 色合い/質感も、硬質な駅構内から柔らかな花びら、再生紙のザラつきまで鮮やかに再現している。

 見た目の美しさに隠れがちだが、音関係の仕事もかなりいい。風、クルマや電車やバイク、雑踏、虫の音、海鳴りなど、その場にふさわしい音が高い密度で作品に埋め込まれている。
 演技陣では、本職・花村怜美の声優芝居に比べて近藤好美がナチュラルで可愛らしい。

 と、いい部分は多々あるものの、それが同時に悪い部分を浮かび上がらせることになっているのが残念。あるいは「個々のいい部分=本作の限界」ともいえるだろうか。
 たとえば美術だけが突出し、キャラクターデザインや人の動きがやや稚拙に感じられる。また全カットを全力で描き込んでいるため、第1話でこの美しさに慣れ、下手をすると飽きてしまう。「ここぞ」というポイントが迫ってこないのだ。

 まず内省的な独白(しかも読まれる物語と言葉は、青く幼く拙く、視点も揺らぐ)があって、それに合わせた絵を動かす、という構造にもムズガユサを覚える。何度も時計を見る貴樹、連結部の揺れ、風、距離感とスピード感など味のある演出と表現を時おり見せてはくれるが、全体としては映画というより朗読劇+動く挿絵といったイメージなのだ。

 いい部分を“是”とするなら見ごたえはある。「青く幼く拙く」というのも、実は僕らが通ってきた道であり、その点に心が共鳴する部分もある。あるいは山崎まさよしの名曲『One more time, One more chance』の壮大なビデオクリップとして考えれば、もっと評価を上げてもいいだろう。

 ただ、1本の映画として捉えると「可能性も凄さも感じる。やりたかったことをやり通してもいる。けれど、習作・実験作の域は出ていない」と感じてしまう作品だ。

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