崖の上のポニョ
監督:宮崎駿
声の出演:土井洋輝/奈良柚莉愛/山口智子/長嶋一茂/天海祐希/所ジョージ/矢野顕子/吉行和子/奈良岡朋子/左時枝/平岡映美/大橋のぞみ/柊瑠美
30点満点中16点=監4/話2/出3/芸3/技4
【女の子になった魚と、人間の男の子の物語】
海を見下ろす崖の上に暮らすのは、老人養護施設で働くリサと5歳の男の子・宗介だ。あるとき宗介は、ハムが大好きで魔法も使える女の子のような金魚を拾いポニョと名づけるが、ポニョは高波によって海へと連れ戻されてしまう。ポニョは父親フジモトが海から抽出した「命の水」の力で人間に変身し、波を操って宗介のもとへ。そのおかげで宗介たちの住む港町や、宗介の父・耕一の乗る船は大嵐に見舞われることになるのだった。
(2008年 日本 アニメ)
【子らよ、灯台たれ】
ポニョのいもうとたちの“わらわら感”に萌え。人が走る、クルマがドリフトする、重い荷物を地面に置くとブオンとたわむ、ポニョのお腹はやわらかくふくらむ……と、作画レベルの演出クォリティは、さすがに高い。
立体的なレイアウトや美しい背景美術で、家の中、海の中、一家族の生活圏という各世界が過不足なく作り出される。フジモトの船や水まき機のガジェットも楽しい。ワーグナーを大胆に引用した音楽(ポニョの本名ブリュンヒルデって『ワルキューレ』なのね)もいい。
ただ、描き込むとかリアリズムを追求するというよりも、シンプルなラインと動きで“それっぽさ”を表現するようなイメージ。アニメの原点に戻って手書き作画を押し通したそうだが、それが奏功。このあたりはジブリの真骨頂だろう(トータルとしての幻想性や壮大さには「薄いかな」という印象も残るが)。
さて、物語的な辻褄の排除というか、起承転結の放棄、何が何やら大人は納得できぬまま一気に突っ走る作風は、『千と千尋の神隠し』以降の宮崎アニメにおける特徴(「強い女性」はそれ以前からだけれど)。
が、そのままでは気持ち悪いので一応は読み解きを試みてみる。
ベースにあるのは『人魚姫』で、その悲恋を180度反転させたものと単純に捉えることもできるが、各人物・モノの役割や意味合いを分析するのが理解への道になるだろうか。
元・人間フジモトの狙いはリセット。「このままじゃイカンから、思い切ってやり直そう」という価値観、汚れた世界を立て直すための正当かつ歪んだ意志。HALとかゼーレみたいなもんか。“破壊”と“再生”。
ところがそれを、グランマンマーレは達観とともに受け入れている様子。フジモトとの間に子を作るんだから、とてつもない許容力。人間になりたいというポニョに対しても「いーんじゃないの?」と実におおらかだ(古き佳き時代の海への旅愁は抱いているようだが)。また赤子を抱く母親は、自分の中に食物を取り入れてお乳とし、次なる命へとつなぐ。
いっさいを受け入れ、そこから新しい何かを作り出そうとする存在が、ここにある。「意外と人間を見限っていないガイア」であるともいえるだろう。“創造”である。
で、進化(または変態)を目指すポニョが生まれる。変わることによって魔法を失ったり消耗したりもするし、厄災が引き起こされる可能性もあるのだけれど、何しろハムは美味いし、人が持つ温かさも魅力的だ。進化や進歩における“危険性”と“希望”の象徴か。
受け入れるのが宗介。ポンポン船というシンプルな科学を活用し、あるがままのものを優しく受け止め、愛情を大切にし、学び、とりあえず忙しい。人がたどるべき“未来”だ。
この物語世界の“過去”を知り、行く先を案じているであろう老婆たちもポニョと宗介の意志を尊重し応援する。爺さんの不在は、そこに余計な“破壊”が混じっちゃうと話がややっこしくなるからか。
そして“現在”を生きるわれわれの代弁者がリサ。「何が起こっているのかはわからないけれど、子ども(未来)が明るいのなら大丈夫」という価値観のもとに、“未来”を作り、“未来”に希望を託し、他人を思いやって自分のできることをともかくもまっとうする。
と考えるとこれは、子らに「灯台たれ」と願う映画、その明るい未来を作る責務を現代人に訴える映画といったところか。
ひょっとすると『The 11th Hour』に通じるメッセージが内包されているのかも知れない。
まぁ、かなり身勝手な解釈であることは認めるが。
それよりも、むしろ。
打ち上げられている女の子を助けるっていうオープニングは『未来少年コナン』だよな。不思議な力で老人たちが走るのって『コクーン』だ。
海水魚を水道水で育てる描写とか、わき見運転とか大丈夫か。船長の帽子まで小さくなるのって変じゃないか。
海外版で「観音様の海渡り」って、どう訳したんだろう。うわぁアメリカ版の吹き替えも豪華キャストだなぁ。
無責任な大人としては、トータルな仕上がりやメッセージ性に踏み込んでいく努力を放棄して、細かな部分ばかり気になってしまう作品である。
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