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2010/02/01

ブラックサイト

監督:グレゴリー・ホブリット
出演:ダイアン・レイン/ビリー・バーク/コリン・ハンクス/ジョセフ・クロス/メアリー・ベス・ハート/ピーター・ルイス/タイロン・ジョルダーノ/パーラ・ヘイニー=ジャーディン/ティム・デザーン/クリストファー・カズンズ/ジェシー・テイラー・ファーガソン

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【FBIが追う、殺人ライブ中継サイト】
 母と幼い娘とともに暮らすFBI捜査官ジェニファー・マーシュ。彼女が所属するサイバー犯罪課は、詐欺やハッキングなどネット内で起こるさまざまな事件を捜査・解決するのが仕事だ。ある日、「killwithme.com」というサイトが生まれた。それは、アクセス数が増えれば拉致された人が死に、その様子をライブ中継するというものだった。ジェニファーや同僚のグリフィン、警察のボックスらは捜査を進めるが、被害者は次々と増えていき……。
(2008年 アメリカ)

【人の心に巣食うもの】
 浅い色調、ザラリとした質感、ややソフトなフォーカス。その画面がサスペンスを引き立てる。撮影は『フリーダムランド』『パーフェクト・ストレンジャー』でも印象的な絵を作ったアナスタス・N・ミコスだ。
 さらに今回は、対象を追う、観察する、一人称視点といった特異なアングルに俯瞰もミックスして、雑然と広がるこの社会で、誰もが犯罪の目撃者にも被害者にも共犯者にもなりうる、という空気を創出している。

 監督は『オーロラの彼方へ』『真実の行方』のグレゴリー・ホブリットで、さすがに犯罪モノは手馴れた感じ。上述の各種視点、適度な説明口調、サウンドトラックによる盛り上げなど、手堅く見せる。
 ダイアン・レインは依然として美しく、歩きかたや眉のライン、あるいは表情の“やつれ”などで、仕事はデキるが弱みも持つシングル・マザーを好演する。
 ストーリーも、あらかじめ「自動車事故を見物する人たち」を登場させて本作のテーマを漂わせたり、伏線を潜ませたり、ハイテク犯罪を解決へ導くあるアナログな技術を盛り込んだり、まずまずの仕上がり。
 犯人が被害者を不用意に自宅へ招いたり、突入時にサイバー犯罪課も同行したり、ちょっと強引で不自然な点もあるけれど、それが次のスリリングな展開へちゃんと結びついているのだから、まぁ許容範囲だろう。

 全体として、きっちり手堅く、雰囲気もよく作られた映画だ。

 まぁこの手の作品でありがちな、「せっかく知能戦を描いているのにラストはバカ・アクション」へと陥りそうになったりもするのだが、最後のジェニファーの行動や画面に映し出される数字によって、しっかりと芯のある映画に踏みとどまる。

 要するに警告だ。または批難されているのだ。ネット社会で刺激を漁り、なりすましや匿名の中傷や著作権侵害を当たり前のものとしてやり過ごし、いつしか罪の意識や良識とは無縁の価値観を身につけて生きるようになった僕らに対する不信感が作った映画だ。
 ネットの中では、その無責任な価値観が極めて迅速に“マス”となり、1つの歪んだ流れを作っていく。
 もちろん決定的な悪は実行犯ではあるけれど、悪いことをしているつもりのない不特定多数が、ネット社会で確実に誰かを傷つけているのは疑いようのない事実だろう。
 それこそが現代における大きな恐怖であり脅威であると、本作は告げる。

 ただし、恐怖と脅威の対象は、必ずしも「ネットの中の独特の価値観」にとどまらない。
 あいつだってやっている。俺は見ていただけ。別に誰も傷つけたつもりはない。そういう“すっとぼけ”の横行、たとえば信号無視やネコババ、ポイ捨てなどは以前から見られたことであり、ジェニファーいわく「とっくの昔から人間はこう」というのが真理、それこそが人間の業なのだ。

 人間の心にはハナっから「悪いことをしているつもりなんかないよ」という意識が巣食っており、それこそがまさに“Untraceable”、追跡して食い止めることのできない、真の恐怖と脅威であるのかも知れない。

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