アメリカを売った男
監督:ビリー・レイ
出演:クリス・クーパー/ライアン・フィリップ/ローラ・リニー/キャロライン・ダヴァーナス/ゲイリー・コール/デニス・ヘイスバート/キャスリーン・クインラン/ブルース・デイヴィソン
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3
【スパイをスパイする】
特別捜査官への昇進を夢見ながら尾行・追跡の任務に明け暮れるFBI職員エリック・オニール。彼は新設された情報保護部門へ異動となり、ロシア諜報関連のエキスパートで退職間近のロバート・ハンセンを補佐する仕事に就く。が、エリックの真の役割はハンセンの監視。ハンセンにはアメリカのスパイをロシアに売り渡していた嫌疑がかけられていたのだ。ハンセンと時間を過ごすに連れ、敬虔な信徒である彼に惹かれるエリックだったが……。
(2007年 アメリカ)
【そもそも、何のために、誰のために】
単に「売国奴が逮捕されるまでの2か月」を描いた映画ではない。かといって「なぜハンセンは、そのような行為を繰り返していたのか?」と彼のパーソナルな部分を探る作品でもない。
まぁ、その「なぜ?」の部分を掘り下げるとするなら“ちょっとした満足感を得るため”ということになるのだろう。
職員が互いに足を引っ張り合っていること、縄張り意識、自己実現のために生涯を捧げてきた任務が水泡に帰したことに対する怒り、窓のないオフィスへの不満、ホコリをかぶったPCで示される“重要でない任務”、自分の任務の真の目的を知らされないオニールの不平、そして自らの存在意義を立証するため愚行に走ってしまうハンセン……といった状況と描写が盛り込まれる。
ハンセンに限らず誰もが、「いまやっていることが、少なからず意義のあること」だと納得したい、そんな意識とともに仕事をしている。
それは恐らくあらゆる職業とキャリアに共通の思いであり、その思いが満たされないとき、人は妬み嫉みといった感情を抱き、自分を過大評価し、遂には「悪いのは俺を認めない周囲」と思い込み、抑圧された環境下で“ちょっとした満足感を得るため”に、他人を陥れたり道を踏み外してしまったりするわけだ。
そこへ、信仰心、もっとも大切なものであるはずの家族との関係、無条件に自分に注がれる期待とプレッシャーなどを絡めて、「そもそも仕事とは、何のための、誰のためのものか?」という問いを投げかけてくる映画だといえるだろう。
ハンセンが、もっとも好きな「日曜日」に逮捕されるのが印象的だ。
描きかたはオーソドックスかつ大人しめ。タイムリミット・サスペンスのシーンはいくつかあるが、全体としては“満たされない苦悩”と“それゆえに望まぬ仕事に手を染める苦悩”を、役者たちの演技で観せる静かな作品となっている。
その演技の点では、渋く深く苦悩をかみ殺したクリス・クーパー、揺れ動くライアン・フィリップ、理解と苦渋の間で突き進むローラ・リニー、いずれも上質で、ややまったりとした流れでも飽きさせない。
クライマックスでエリックがハンセンを“説得”する流れがやや強引だったり、前述の通りハンセンのパーソナルな部分に迫る描写・エピソードが弱かったりはするものの、「仕事とは?」ということを考えさせる映画にはなっているように思う。
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