譜めくりの女
監督:ドゥニ・デルクール
出演:カトリーヌ・フロ/デボラ・フランソワ/パスカル・グレゴリー/クロティルド・モレ/グザヴィエ・ドゥ・ギュボン/クリスティーヌ・シティ/ジャック・ボナフェ/アントワン・マルティンショウ/ジュリー・リシャレ/マルティーヌ・シュヴァリエ/アンドレ・マルコン/アリエール・ブトー/ミシェル・エルノウ/ダニエル・ドゥエ
30点満点中18点=監4/話4/出4/芸4/技2
【若く美しい復讐の影】
ピアニストを目指して音楽学校の試験に臨む少女メラニー。だが試験官のひとりで有名な女流ピアニスト・アリアーヌが見せた心無い態度は、メラニーの演奏を乱す。数年後、ピアノを捨てたメラニーは法律家への道を歩み、弁護士事務所で実習をおこなっていた。ボスであるジャンが子守を探していると聞き、名乗り出るメラニー。そして彼女は、ジャンの妻=アリアーヌに近づく。それは周到に準備された、メラニーによる復讐劇の始まりだった。
(2006年 フランス)
【静かな怖さ】
えっと、怖いんですけど……。
序盤、試験のシーンに胃が痛くなる。特別な撮りかたでなくとも、うわっという気まずい事柄を用意し、その影響(ボロボロになる演奏)をしっかりと拾い、それらを適確につなげば“スリル”は作れるのだ。
直後の練習室では、メラニーの中に燻る狂気が示される。彼女が肉を断ち切ることなど何とも思っていないことも描かれる。エレベーターや地下のプールといった、ジワリと恐ろしい閉塞空間も用意される。
冷たく静かに流れるサウンドトラックの力。不要なセリフ/場面を一切差し挟まないことで作られる張り詰めた空気。
そうして、いつ、何が起こるのか(起こすのか)と、観る者を釘付けにしていく。
メラニー役のデボラ・フランソワがいい。正直、演技なのか不器用なのかわからない立ち居振る舞いと表情だが、『ある子供』と同じように「等身大の人物」という趣。
ところが物語が進むにしたがって確実に顔の作りや肌の色合いは変化していき、ストーリーに真実味を持たせる。
もちろんカトリーヌ・フロも立派。冷たさと愛と恐れとを抱え持ち、揺れ動く心をそつなく表現。芸達者なところも見せてくれる。
やがて復讐劇は終幕へ。ヒステリックにはならず、一貫して、静かに、静かに、壊れていく家庭を描く。
意外とポイントになっているのが、少女時代のメラニーのピアノが決して上手いわけではなかったこと。本気でピアニストを目指すあの年齢なら、もう少しレベルの高い曲を鮮やかに弾けるはず。または「もともとそのレベルの子ども向けの学校の試験」であり、たとえ合格しても将来まで保証されたとはいえないだろう。
が、だからこそ、メラニーが抱える狂気はより強いものとして感じられ、ほんの些細な行為が他人の未来を捻じ曲げ、自分の未来も変えてしまう、そんな恐怖も増していくのだ。
欲をいえば、何かもう1つ、メラニーがアリアーヌの心を動かすエピソードが必要だった。
たとえば「アリアーヌの料理を味見するメラニー→ちょっと手を加えるだけで美味しくなる→自分の指についたソースをなめ、さらにアリアーヌの指もなめるメラニー」なんて場面なんてどうだろう。ちょっとやりすぎかも知れないが、本作に漂う暗いエロティシズムもグっと増大するはず。試着室に入ったメラニーが、わざとカーテンを閉め切らない、なんて描写や、あのチェロ弾きにまつわるゴタゴタがあってもよかっただろう。
いくぶん乱暴に撮られている部分もあり、また“メラニーに傾いていくアリアーヌ”という最重要部分にもっと説得力を持たせて欲しかったとも思うが、確実に「捻じ曲がった人の怖さ」を感じることのできる作品だ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント