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2010/03/03

4分間のピアニスト

監督:クリス・クラウス
出演:モニカ・ブライブトロイ/ハンナー・ヘルツシュプルング/スヴェン・ピッピッヒ/リッキー・ミューラー/ヤスミン・タバタバイ/シュテファン・クルト/ヴァディム・グロウナ/ナディヤ・ウール/ペーター・ダヴォル/エディタ・マロフチッチ/カトリン・ケストラー/アンベール・ボンガルド

30点満点中21点=監4/話5/出4/芸4/技4

【才能と愛】
 かつて名ピアニストとして活躍したトラウデ・クリューガーは、殺人の罪で収監されているジェニーに才能を見出し、刑務所内で彼女にレッスンをつけようとする。だがジェニーは“外の世界”に興味を示さず、他の受刑者との諍いを繰り返し、刑務官ミュッツェらにも暴力を働くなど反抗的な態度を隠さない。ようやくコンクールへの出場にこぎつけたトラウデとジェニーだったが、彼女らの抱える重い過去が、ふたりの未来を苛むのだった。
(2006年 ドイツ)

【愛も人も、そもそも歪んでいる】
 ジェニーによる「Abschlusskonzert」=ラストコンサートが圧巻。モチーフとなるのはシューマンのピアノ協奏曲イ短調だ。
 難曲でありながら、『僕のピアノコンチェルト』のラストで用いられ、ウルトラセブン『史上最大の侵略』でも印象的に使われるなど、多くの才能に愛される音楽。確かに、心を揺り動かすパワーを秘める。
 また、シューマンは「音楽は、魂を語るのに最善の言語」と語り、愛によって歪んでいく生涯を送った人物。本作のテーマを考えれば、なるほど「いい選曲だ」ということになる。

 一貫して語られるのは、愛は人を裏切り、それがまた歪んだ愛を作り、人そのものをも歪めていく、ということである。

 トラウデは保身のために愛する者との関係を否定し、愛するピアノが愛する女性に死をもたらしたことも知る。ジェニーは養父に辱めを受け、恋人に捨てられる。ミュッツェは自身の音楽への愛を「モッツァレラ」などというダジャレで侮辱される。コワルスキーは別れた妻と罵りあう。
 そう、愛はいつも人を裏切る。
 そこから派生する、ねたみ、そねみ、コンプレックス、厭世の思い、愛に謝罪などいらないという価値観、想いを言葉にできない悔しさ、死や破壊と音楽は隣接するのだという哀しさ……。

 だが、どこかで彼女たちは期待をしている。愛に生きる自分を見捨てられないでいる。
 聖職者の言葉を中腰で(つまり他者を完全には否定していない態度で)聴くジェニー。残された命を次代へつなごうとするトラウデ。養父やミュッツェらもジェニーを助け、コワルスキーは愛を蘇らせようとする。

 時制を操り回想を織り交ぜながら、そんな、登場人物たちの愛ゆえの歪みと希望とをひとつずつすくい上げていく。
 食べられる紙、酒、吐き出される言葉といった点と点が結びついて一本の線になり、ひとつのドラマを作り、ひとりの人間を描き出す、綿密に練り上げられた脚本が見事だ。
 その物語を、人物たちが生きる世界へと潜り込むように、ときに大きくときに小さく動きながら、自在な距離感でカメラは捉える。舞台を彩るベートーベンやシューベルト、アネッテ・フォックスらの音楽も鮮やか(ピアノ演奏には白木加絵と木吉佐和美、ドイツで活躍する日本人ピアニストも参加しているらしい)だ。

 怒りと哀しさと希望を懸命に押し殺すように、前屈みで歩くトラウデ=モニカ・ブライブトロイもいいが、ジェニー=ハンナー・ヘルツシュプルングの、まさに公式サイトで述べられている通りの「荒々しい一匹狼的な要素と天才的なピアニストという両面を納得させてくれる少女」ぶりがまた素晴らしい。ピアノ演奏シーンは集中レッスンの賜物とのことだが、肩甲骨の柔らかな盛り上がりが、女性ピアニストの“らしさ”を体現する。

 そしてジェニーは、協奏曲に独りで立ち向かっていく。シューマンに自分自身を乗っけていく。凶暴で自暴自棄で、けれど存在を認識してもらおうとして泣き叫ぶ彼女自身を表現する。
 ここで僕らが突きつけられるのは「そもそも愛って何なのか?」「音楽って何だ?」という問いかけである。

 音楽は愛であり、魂であり、人そのものでもある。そして、もともと愛という感情は支配欲や一方的な押し付けや無理解や儚さから成る歪んだものであり、魂の形は正円ではなく、人はコンプレックスや無関心や感情の移ろいを抱える歪んだ生き物なのだ。
 そんな歪んだ愛と自分自身を表現し、さらけ出す。その行為を経てはじめて、人はたがいの存在や愛を認めあうことが可能となり、“お辞儀”へと至ることもできるのではないだろうか。
 強烈なパッションが届くラストシーンだ。

 これは「才能あるピアニストに教える老教師」という輪郭の奥で、深く深く愛について語る映画である。

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