バンク・ジョブ
監督:ロジャー・ドナルドソン
出演:ジェイソン・ステイサム/サフロン・バロウズ/スティーヴン・キャンベル・ムーア/ダニエル・メイズ/ジェームズ・フォークナー/アルキ・デヴィッド/マイケル・ジブソン/ジョージア・テイラー/リチャード・リンターン/ピーター・ボウルズ/アリスター・ペトリ/ハティ・モラハン/ルパート・フレイザー/クリストファー・オーウェン/キーリー・ホーズ/テーラー・サムウェイズ/ケイシー・ベイトリップ/ドン・ギャラガー/ジェラード・ホラン/デヴィッド・スーシェ/ピーター・デ・ジャージー/コリン・サーモン/シャロン・モーン
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3
【最後に笑うのは、誰だ?】
70年代初頭のロンドン。借金苦にあえぐ中古車屋のテリーは、昔馴染のマルティーヌに誘われ「地下道を掘って銀行の貸金庫から金品を強奪する」という計画を実行する。が、マルティーヌの裏で糸を引く英国諜報部員ティムの狙いは、貸金庫に眠る王室スキャンダルの証拠を手に入れること。さらに貸金庫には警官の汚職を示す帳簿も隠されていたことから、悪党ども、警察、諜報機関など、事件の陰ではさまざまな思惑が交錯することになる。
(2008年 イギリス)
【センスとパワーで仕上がった面白い映画】
1971年に起きた「ウォーキー・トーキー強盗事件」をもとに作られたベースド・オン・トゥルー・ストーリーものらしい。
リアリティを高めようと、美術/ロケーションや衣装が頑張っているのがわかる。かなり70年代、まったく“いま”という気配がない。
すっと人物に寄るズームアップを使うなど、撮りかたも何となく70年代風だ。ただしナナメのアングルを挟んだり、神経質だが安っぽくないサントラを乗っけたりして“古さ”を排除しようという気概も見せる。
シナリオには少々説明っぽい部分もあるが、複数エピソードをテンポよくつないであって、わかりやすさも流れも上々(脚本は『マウス・タウン ロディとリタの大冒険』のディック・クレメント&イアン・ラ・フレネ)。
それを手堅く見せるストーリー・テリングの腕も申し分ない。「いろいろと事情は入り組んでいるけれど、描かれていることの大半は銀行に潜入してブツを盗むまでのあれこれ」というお話を、スリリングにまとめてあって上手さを感じさせる。無線を利用した捜査のくだりなどは、なかなかの緊迫感だ。
監督はロジャー・ドナルドソン。『追いつめられて』では派手なことはやっていないのに静かにサスペンスを積み上げていったし、『世界最速のインディアン』はジワリとテーマが観る者に染み込んでくる作りだった。やっぱ上手いんだな、この人。
キャストも良質だ。
まぁジェイソン・ステイサムはいつも通りだけれど、サフロン・バロウズの美貌が光る。『ギャングスター・ナンバー1』での可愛さよりも、こうした怪しさこそが似合う。どことなくシャーロット・ランプリングを髣髴とさせる、冷たさと堅苦しさと色気がいい。
また、ケヴィン役のスティーヴン・キャンベル・ムーア、デイヴ役のダニエル・メイズらの強盗たちをはじめ、ヴォーゲル役デヴィッド・スーシェなどの悪党ども、政府側、警察、黒人活動家……と、出てくる人物・役者がみんな“それっぽい”のもポイントだ。
1シーンしか出てこないマウントバッテン卿(クリストファー・オーウェン)がいかにも「いろいろやってきた貴族」に見えたりして、多種多様な民族・地位の人材を無理なく1つの映画に収められる、イギリス映画界の懐の深さにも感心させられた。
というわけで、けっこう細かくて上質な「面白い映画作りのためのセンスとパワー」が詰まっている作品だ。
悪党が人間臭い悪党として存在する。スタイリッシュではなく猥雑。陰謀や悪事が怒りや胃のキリキリ感や身の破滅ではなく、殺伐と必要悪と正義のミックスへと行き着く。そんな、“21世紀から見た70年代”を感じ取ることのできる映画ともいえるだろう。
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