シャーロック・ホームズ
監督:ガイ・リッチー
出演:ロバート・ダウニー・Jr/ジュード・ロウ/レイチェル・マクアダムス/マーク・ストロング/エディ・マーサン/ケリー・ライリー/ロバート・メイレット/ジェラルディン・ジェームズ/ウィリアム・ヒューストン/ハンス・マシソン/ジェームズ・フォックス/ウィリアム・ホープ/クライヴ・ラッセル/オラン・ギュレル
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3
【死から蘇った魔術師に、名探偵と医師のコンビが挑む】
数々の難事件を解決してきたロンドンの私立探偵シャーロック・ホームズと医師ジョン・ワトソンは、今回も女性5人を殺害したブラックウッド卿逮捕に成功する。が、ワトソンが婚約者メアリーとの同居のためアパートを出て行くと知ってホームズは不機嫌。さらに処刑されたはずのブラックウッド卿が新たな殺人を開始し、かつてホームズを唯一(しかも二度も)騙したアメリカ人女性アイリーン・アドラーも暗躍。事件の裏に潜む真実とは?
(2009年 アメリカ/ドイツ)
★ややネタバレを含みます★
【開き直りのエンターテインメント】
ベイカー街221B。この、世界でもっとも有名な住所に“ときめき”を感じる身としては、なかなかに嬉しい映画だ。
巷間では「新しい武闘派シャーロック・ホームズ」との評。なるほどアクション重視、マッチョなホームズが活躍する純エンターテインメント作品である。謎解き部分は、かなりいい加減だ。
が、実のところ、これが大正解なんじゃないか。
特に効いているのが、ロバート・ダウニー・Jrの創り出した、この魅力的なホームズ。インテリジェンスと偏執狂っぽさをキープしつつ、筋肉ムキムキで躍動し、その周囲にはユーモアも漂う。
まぁ、もっと鉤鼻で身長も高いというイメージがホームズにはあるかも知れない。けれど「知性的でシニカルで論理的で博学、だが腕っぷしも強くて刹那的な一面も」って、ホームズ像そのものだろう。
それを独自の解釈でエキセントリックな方向へと引っ張り、さらに、こっそり証拠を持ち帰る際の(冷静な)挙動不審ぶりやアイリーンを見る目などに感じられる“人間的部分”という味と厚みを上手に加えたダウニー・ホームズは、結構好き、拍手とともに迎えたい。
どちらかというとワトソンのほうが、みんなが考える“名探偵の引き立て役”から大きくジャンプアップしているといえる(もっとも原作ではワトソンも意外とアクティヴなようだが)。
まぁジュード・ロウのカッコいいこと。破天荒な探偵に振り回されつつも八面六臂の大奮闘。特にね、ドアを蹴破るところがクール。「戦場で負傷して帰還した軍医。ホームズという変わり者と互角に接することができる」という存在としてのワトソンに十分な説得力を持たせている。
このふたりの、頼り頼られ、傷つけあってともに歩むヒネクレた関係をタップリと見せてくれるのが楽しい。なんだかハウスとウィルソンを思い出して微笑ましい(って、そもそも『HOUSE』がホームズのパロディなので当たり前か)のだ。
レイチェル・マクアダムスは、珍しく悪女ぶりを発揮しつつ、持ち前の純真さや“漠然とした不安を湛える瞳”を発揮してキュート。マーク・ストロングの、いかにも「今回コイツがやられます」的な悪党ぶりも、使えなさそうで使えるレストレード警部のエディ・マーサンも適役だ。
こうしたキャラクターの見せかたが、本作の楽しさを支えていることは疑いようがない。
内容/ストーリーとしては、前述の通り純エンターテインメント。推理劇というより活劇と割り切って、謎解きに関しては「これこれこうだっ」とまとめて解説する力技。ほとんど二時間サスペンスのレベルだ。
工夫といったら「キーとして登場するのは、ある先端科学技術。だがそれは現代ではそこいらに転がっている(本作をDVDで観る際にもお世話になるはず)」という皮肉くらいだろうか。
ただし、想像や予定、あるいは起こったことを映像として構築して挿入する(わかりにくい説明で恐縮だが)という手法は、ユニークかつ刺激的。
それに、活劇部分はスタイリッシュかつダイナミックかつスピーディに展開して目を離せない作り。肉弾戦を中心にしながら各種の小道具・武器も登場させてアクションは多彩で、ドックのシーンや跳ね橋でのクライマックスにはスケール感もある。
遠景からクローズアップ、短いカットにスローモーションにCGにナナメのアングルに、と、とにかく変幻自在に絵を畳みかけて、それで破綻しないのはスゴイこと。前世紀のロンドンを再現した美術も立派、バイオリンをメインに据えた音楽も作品に馴染む。
監督のガイ・リッチーについては『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で「俺はこういう絵を撮りたいの!という思いが空回りしていない」と評し、『リボルバー』では「観客をグイグイと引っ張っていく豪腕」があると感じたが、本作もまさにその通りの仕上がりだ。
正直、カッコよさと爽快感以外に何かが残るかといわれれば、疑問。ひたすらアクション映画と開き直っているので、それ以上の深みには乏しい。だが、それもまた映画の1つのスタイルではあるだろう。
少なくとも、パート2(作られるんだろうな)を観たいとは思わせる。宿敵モリアーティを相手に迎え、馬車チェイスやフェンシングや薬物依存など本作では盛り込まれなかった「ホームズっぽい要素」も加えた、さらにスカっとさせられる続編に期待したいところである。
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