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2010/03/01

ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛

監督:アンドリュー・アダムソン
出演:ベン・バーンズ/ウィリアム・モーズリー/アナ・ポップルウェル/スキャンダー・ケインズ/ジョージー・ヘンリー/セルジオ・カステリット/ピーター・ディンクレイジ/ワーウィック・デイヴィス/ヴィンセント・グラス/ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ/コーネル・ジョン/ダミアン・アルカザール/ティルダ・スウィントン
声の出演:リーアム・ニーソン/ケン・ストット/エディ・イザード

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【ナルニアの危機に、5人の王と王女が立ち上がる】
 角笛の音に導かれて、1年ぶりにナルニアの地へ降り立ったピーター、スーザン、エドマンド、ルーシーのペベンシー4きょうだい。だがナルニアでは1000年以上が経過、隣国テルマールとの戦いに敗れ滅亡の危機にあった。そのテルマールでは暴君ミラース卿が、甥で王位継承者でもあるカスピアンの殺害を画策、ナルニアへの侵攻も始めようとする。ペベンシーたちとカスピアンは抵抗しようとするが、頼みの綱アスランの姿はなく……。
(2008年 イギリス/アメリカ)

【成功のパート2】
 いやはや思い切った方針転換だ。原作がそうなのかも知れないけれど、前作の『ライオンと魔女』とはかなり肌合いが異なる。
 前作の感想をまとめると「キッチリとわかりやすく、“善良さ”を軸として仕上げたお子様向け冒険ファンタジーで、ディズニー・クォリティによる安心感が充満。そのぶん、ストレートすぎ、あっけなさすぎ」。
 ところが今回は、もう“戦争”ですから。

 まずは森、海、廃墟といった光景で、草原が主舞台だった前作との違いを印象づける(と同時に荒れ果てた玉座を見せて、前作とのつながりもきっちりと示す)。
 その後も、前作ほどには笑いやウォーミーな雰囲気に走らず、追い詰められたナルニアとカスピアンの姿をひたすら描く。戦闘は剣戟や肉弾戦が中心で重苦しく、犠牲者も続出。未成年のピーター、スーザン、エドマンドが人間を殺しまくる。
 温から冷へ、勇気から殺伐へ。凄まじい舵の切りかただ。

 ただ、そのシリアスな空気が面白さアップに貢献している。
 ペベンシー4きょうだいだけでなく観る者にとっても「思い出の地」であるナルニア、そこへ還れた喜びを謳歌したいのに、大地は人の血で汚され、人の手で蹂躙される(された)。その痛みが感情移入を誘う。

 見せかたの質も向上した。
 たとえば「ここ、ふたりの距離は離れているので、おたがいの表情は望遠で捉えたいよな」と感じるところは、きっちりそう撮る。そういう“奇をてらわず真っ当に撮る”ことを前作同様に徹底しながら、スケールとスピード感とダイナミックさを増強したイメージ。
 白眉は戦闘場面。ぐぅわぁっと城内にカメラを潜り込ませ、その画面の中で縦横無尽に駆けるネズミたち。あるいは1対1の決闘での、一人称視点や寄りのスリル。同監督が『シュレック』でも見せた立体的な画面構成を、存分に味わわせてくれる。
 CGのクオリティも向上しているし、CGと実写の“なじみ”かたも良質だ。

 4きょうだいの成長も嬉しい。特にピーターは、役立たずだった前作から一変してまさに“一の王”として恥ずかしくない働き。カッコよすぎ。スーザン役アナ・ポップルウェルも可愛らしくなった。
 そこへ混じるベン・バーンズのカスピアンも、やや個性不足に思えるが王子様体型で作品世界にピタリとハマる。

 トータルとして、まるでピーターのように作品じたいもまた「オドオドしていた子が、久しぶりに会ったらたくましくなっていた」という意外性と進化とを感じさせる、素晴らしい続編になったといえるのではないだろうか。

 不満もある。美術面の鮮度は、さすがに前作のほうが上。音楽も、風格はあるんだけれどもう少し重厚さが欲しかったところ。アクションをスローで誤魔化しているシーンが多いのもいただけない。

 そして、依然として奥深さがない。せっかくアスランの父性や「もうナルニアに戻ることはない」と語るピーターの心の成長など、前作で描き損ねた部分をフォローできるチャンスだったのに、そこへ踏み込んでいかない。
 相変わらず出来事を描くだけに終始して、ナルニアが子どもたちに与える影響や存在意義、それぞれの心情へと迫らない。キャラクターが多すぎて、ひとりひとりや一匹ずつの描写がサラリとしすぎているのだ。
 どちらの世界も戦争で覆ってしまうアダムの息子=人間の罪深さ、荒廃したナルニアと現世との共通性、けれどそれを救うのも人間の“信じる心”といったテーマも消化不足に思える。

 とはいえ、驚きの路線転換と立体的な画面作りが、物語そのものの立体的な広がりを強く感じさせたことは評価したい。「原作を読んでみたいな」という思いも、前作では抱かなかった。その1点をとっても、成功といえるパート2ではないだろうか。

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