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2010/04/18

キャラメル

監督:ナディーン・ラバキー
出演:ナディーン・ラバキー/ヤスミン・アル=マスリ/ジョアンナ・ムカルゼル/ジゼル・アウワド/アデル・カラム/シハム・ハッダード/アジザ・セマーン/ファトメ・サファ/ディミトリ・スタノフスキ/ファディア・ステラ/イズマイル・アンター

30点満点中19点=監4/話5/出3/芸4/技3

【美容室とその周りに、いくつもの愛】
 ラヤールは妻子ある男性と不倫の最中、強情なバッサムと婚約したニスリンはある秘密を抱え、気難しいリマは美しい客シハムが気にかかる。3人が働くベイルートのエステサロン。その周囲にも、オーディションを受け続ける元女優のジャマル、アメリカ人客チャールズに胸をときめかせる仕立て屋のローズ、その姉で紙集めが趣味のリリー、遠くからラヤールを見つめる警官ヨーゼフなど、ここにはいくつもの想いが花を咲かせていた。
(2007年 レバノン/フランス)

【女性映画の秀作】
 レバノンは人口約400万人強、かつてはフランスの統治領だったが、現在は大統領制の共和国で、公用語はアラビア語。キリスト教徒とイスラム教徒が混在し、各宗派は対立、内戦や、親米vs親シリアの抗争が絶えない。
 そんな、文化的にも民族的にも政治的にも、日本人には縁遠い国が舞台となっているのだけれど、いわゆる“カルチャーショック”以上に、すごいシナリオだなぁという驚きが大きい。

 大事件は起こらない。描かれるのは狭い範囲。登場するのは、ごく普通の女性たち。なのに、とてつもない密度の想いが渦巻く。

 彼と過ごす夜のために、安ホテルの内装を精一杯チャーミングにしようという発想がすごい。そのラヤールが、何も知らない不倫相手の妻クリスティーヌから投げかけられる言葉の棘がすごい。
 まだ若く「行っちゃえ」的な価値観を持ちながら、その裏に罪悪感を隠しているニスリン。彼女は「文化と個性の不一致」という悲哀を抱える。リマは甲高い喋り声と無口に微笑む笑顔のギャップが魅力で、彼女もまた文化と個性の不一致を体現する存在だ。
 リリーとローズという名前からは、この老姉妹の両親が先進的で優しい心の持ち主だったことがうかがえる。きっと昔は、姉リリーが妹ローズの面倒をあれやこれやと見てきたに違いない。哀しげに化粧を拭うローズに姉妹が積み重ねてきた時間を感じ、ラストで妹に手を引かれて歩くリリーの姿はとても愛おしく思える。
 そして、体型と見てくれに執心し、生化学的な点も含めて、いつまでも女であろうとするジャマル。

 彼女たちの生きる姿は、手持ちの望遠で観察するように捉えられる。あるいはグっと内面に寄るようにして撮られる。映像的なテンポが上質。
 ただし、すべてを見せるわけじゃない。視線や表情や展開で、描かれていないことまでわからせてみせる。10のうち2と5と7を示し、後から4や8をさらりとフォローする、そんな語り口。演出的なテンポも絶妙だ。

 エステサロンだけに、登場する髪型は多彩。それが目に楽しいのだが、特にラスト近く、髪を短く切ったシハムは確かにチャーミングで、ここはもうすべてのクリエーターが見習わなければならないところだ。
 長い黒髪が魅力的な女性。でも「短いのも似合う」といわれ、切ったら実際、想像以上に似合っている。そんなことを表現したいなら、下手な小細工やセリフなど不要、「長い黒髪が魅力で、切ったらもっと可愛い」という女性を登場させて満足げに微笑ませればいいのである。

 全体に“見せかた・語りかたの上手さ”を感じられると同時に、女性映画というカテゴリーがあるとしたら、その代表的作品として数えたくなる仕上がり。主演兼監督ナディーン・ラバキーの才能とセンスに惚れる。

 タイトルは脱毛に用いられるキャラメルから。
 まさにキャラメルのごとく、女性は煮詰められて甘くなり、余分なものを取り除きながら、美しくなっていく。

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