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2010/05/22

エリザベスタウン

監督:キャメロン・クロウ
出演:オーランド・ブルーム/キルステン・ダンスト/アレック・ボールドウィン/ブルース・マッギル/ジュディ・グリア/ジェシカ・ビール/ポール・シュナイダー/ロードン・ウェインライト3世/ゲイラード・サーテイン/ティム・デヴィット/ジェド・リース/エミリー・ルザーファード/パウラ・ディーン/マクスウェル・モス・スティーン&レイド・トンプソン・スティーン/スーザン・サランドン

30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3

【大失敗、父の死、そして出会い】
 自分が勤めるシューズ・メーカーに約10億ドルもの損害を与えてしまったドリュー。恋人エレンとは破局、怒りすらしない社長の姿に胸は痛み、自殺を決意する。そこへ、父ミッチェルの訃報。ドリューはひとり、父の故郷であるケンタッキーのエリザベスタウンへと向かう。伯父さんたちや従兄弟のジェシー、結婚を控えるチャック、そしてキャビンアテンダントのクレアらと触れ合う中で、彼は「生きる」ということについて考える。
(2005年 アメリカ)

【あれこれあるのが人生、関わりあうのが人生】
 全体の作りとしては、ナレーション主導でやや説明っぽく、撮りかたも、野暮ったくはないが実直なだけ、というイメージ。
 ただし、映画的な“読み取り”の面白さは味わえる。

 たとえば何度も「大丈夫」と繰り返し、自分に言い聞かせるドリュー。幼いサムソンの育てかたに関して「父親は息子の友達にはなれない」と親父さんからいわれたジェシーの表情。いずれも上手く、それぞれの心理を描き出している。
 ドリューが街に着いたとき、クルマを見ただけでみんなが案内してくれる様子から、エリザベスタウンがどんな場所か、ここにミッチェルの魂がどう生きているかがわかる。
 あるいは「これがカリフォルニアの下した決断だ!」と言い放つドリューに対して伯父さんたちが笑うのは、そこにミッチェルを見たからだろう。

 サントラの使いかたもニクイ。序盤は男性ヴォーカルのロックやブルースでドリューの孤独感と「何も考えたくない」感を浮かび上がらせていく。クレアの登場に合わせて女性ヴォーカルも流れるようになり、ラストは男女混成のバンドI NINEが世界を歌う「Same in Any Language」と、両親の想い出の曲「ムーンリバー」で、ドリューとクレアの未来を暗示するような締めとなっている(音楽はナンシー・ウィルソン)。

 そうした雰囲気作りと描写のセンスゆえに気持ちよく、いわば「観る人は選ばない」映画だろう。が、「感じる人は選ぶ」かも知れない。

 10億ドルの大失敗を屁とも思わない人、ショックは受けても自殺までは考えない人もいるはず。むしろドリューに感情移入できる人のほうが少ないように思える。
 エリザベスタウンにある“つながり”をどう感じるか、「生と死は隣にある」という言葉は心に響くか、母ホリーの態度を笑顔で理解できるか……なども、個人の価値観にだいぶ左右されそうだ。
 青く燃えるガスの火、アイスクリームについての会話、クルマでのひとり旅といったモノゴトの中に何を見るかも人それぞれ。
 そして、失敗からリスタートへと舵を切るきっかけとしてクレアという存在は機能するかどうか。個人的にはこのキャラクターもキルステン・ダンストのチャーミングさも好き(吹き替えで観たんだけれど、園崎未恵の声も大好き)なんだが。

 正直、このあたりに関して“心への迫りかた”は少ない。キャメロン・クロウ監督は『バニラ・スカイ』でもそうだったが、根本的に「人生のディテールの何を重要視するか?」について自分とシンクロしない人なのだと、あらためて感じた。

 が、伝わってくるものはある。
 親と子、男と女、またいとこ、たまたま同じ場所に居合わせた他人、そうしたさまざまな関係が影響を及ぼしあい、自分の存在によって誰かが、誰かの存在によって自分が、何かを得るという事実。たとえそれが“穴埋め”であったとしても、自分はそこにいていいのだという赦し。
 あるいは逆に、自分とは無関係に世界は存在するという事実。どこかで何かが起こり、さまざまな出来事が積み重なって世界は作られている。やがて自分とは無関係だった人やモノが自分のありかたに影響を与えたり、自分がどこかの誰かの人生に意味を持ったりすることもあるだろう。
 どうであれ、自分もまた世界の一部、というわけだ。「大失敗は挑戦した証拠。それは生きること」というメッセージも、わかりやすい。

 なんといってもクレアの作った地図がいい。自身の経験をもとに、大好きな人を喜ばせるために作った、可愛くて心のこもった地図。その人が歩んできた道の一部を知ることで、自分の中にも何かが生まれる。プレゼントとはこうあるべきと思わせるアイテムだ。

 あれこれあるのが人生。その道のりを反映させて作った地図で、誰かを楽しませることができるなら、こんなに幸せなことはない。
 直接的に関わること、間接的に影響を与えること、おたがいそうやって世界が作られていくことを、あらためて思い起こさせる映画である。

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