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2010/05/01

のだめカンタービレ 最終楽章 前編

監督:武内英樹
出演:上野樹里/玉木宏/瑛太/水川あさみ/小出恵介/ウエンツ瑛士/ベッキー/山口紗弥加/山田優/谷原章介/なだぎ武/チャド・マレーン/福士誠治/吉瀬美智子/伊武雅刀/竹中直人/ジリ・ヴァンソン/マヌエル・ドンセル/猫背椿/マンフレット・ウダーツ/シンシア・チェストン/ニコラス・コントス/ルボミール・リプスキー/ルカ・プラトン/ナーダ・コンヴァリンコワ

30点満点中16点=監3/話3/出4/芸4/技2

【のだめと千秋、音楽に賭けるふたりの歩み】
 パリの音楽院で学ぶ、のだめ(野田恵)。進級試験を間近に控えつつ、恋人である千秋真一のライバル、フランス人指揮者のドナデュウがキャリアを伸ばしている様子が気になっているようだ。いっぽう千秋は、130年の伝統を誇るルー・マルレ・オーケストラの常任指揮者に就任。かつて師シュトレーゼマンも指揮したというその楽団は、さまざまな問題を抱えていた。千秋からチェレスタの演奏を依頼され、舞い上がるのだめだったが……。
(2009年 日本)

【意識とベクトルが良作を生む】
 陰影に乏しくて味がなく、立体感にも欠けてのっぺり、ヨーロッパの空気をすくい上げているとはいいがたい、ビデオライクな映像。レンズの種類も画角もバリエーションが少なくて、それらをつなぐ間(ま)にも冗漫な部分が残る。全体に、映画としての“格”を感じられない見た目だ。

 シナリオは、1から100まですべてセリフとナレーションで説明してしまうという、頭の悪い構成。かといって背景やキャラクター設定などを十分に説明しているわけではなく、大した役割を果たしていないのにデカデカとクレジットされている役者も多くて、所詮は「TVドラマの続きを、映画館で見せる」という“商品”に過ぎない、と感じさせる。
 映画というより1つのプロジェクト、といったところだろうか。

 と、まずはマズい部分から述べたけれど、じゃあダメダメ映画かといえばそうではなくて、むしろ「よくできている」といえる。
 とにかく「これは音楽映画であり、音楽家を志す若者たちが主役のストーリーであり、オーケストラを描く作品である」という意識とベクトルを貫徹しているのが素晴らしい。

 のだめはちゃんとピアニストとして悩むし、千秋はちゃんと指揮者として楽団の未来を見て行動する。オクレール先生は音楽の真髄と向き合い、コンマスのシモン氏はオーケストラとしてのありかたを考える。そうした個々の音楽家としての価値観と密接に関わる形で、恋や成長が描かれる。
 たまたま音楽が登場するとか、たまたま主役が音楽家だとか、たまたま恋や成長の舞台がオーケストラだとか、そういったTVサイズの安っぽい作りにとどまらず、「そこに音楽がある意味」をしっかりと感じさせる物語・映画となっているのだ。

 原作をよく咀嚼し、各キャラクターの立ち位置や音楽との距離感をしっかり把握・計算したうえで脚色している証拠だろう。だから、ともすれば邪魔になってしまうギャグ部分もスンナリと映画の中に落ち着く。
 いや、普通なら「のだめ人形」なんか興ざめですよ。でも作品の中で浮くことなく、音楽の楽しさと音楽に関わる辛さの間に挟まるクッションとして微笑ましくうつるのだ。
 音楽、恋、人としての成長、音楽家としての悩み、笑い、それぞれの有機的なつながりは原作以上ではないだろうか。

 また、おそらく「原作に勝てる部分は何だ? 実際に音を鳴らすことができる点だ!」という意識も強かったはず。だから、音楽と場面のシンクロに気を遣い、上手な演奏は上手に、下手な演奏は下手に(あの『ボレロ』の酷い演奏にも、まず4分の1ほど低く聴こえる微妙な音の不安定さを盛り込んでから本格的に崩す、盛り返す、また崩れる、という細やかさがあった)聴かせることにも注力する。
 ま、上手い演奏にわざわざ「上手い」といってしまう野暮ったさはあるけれど、全体としては狙い通りに「おっ」と思わせたり「わちゃぁ」と感じさせたりする、わかりやすさがあったことは確かだ。
 印象的なのは進級試験の『トルコ行進曲』。実際、いい演奏にはああやって音のカタマリが宙を舞うのだ(ポリーニの演奏会で目撃、というか体感している)。もちろんクライマックスの『1812年』も、涙を誘うに十分な出来栄えと迫力を誇る。

 出演陣の“役の仕上がり”も良質だろう。
 上野樹里は、のだめの心情の移ろいを自在に表現。千秋先輩との初共演に舞い上がる姿の、何と愛らしいことか。「ずるい」と漏らす、子どもっぽさとピアニストとしての苦悩のミックスもいい。
 玉木宏は、明らかにTVシリーズ序盤より指揮が上手くなっている。バッハのコンチェルトを弾き終えた直後、カットが切り換わる直前に一瞬だけ見せる満足げな表情が抜群にいい(うちの嫁は『1812年』のマーチ部分に入る直前、盛り上げていくアクションに萌えたらしい)。

 福士誠治の真面目さと純真さ、お笑い担当のウエンツ瑛士&ベッキーのほどほどの明るさ、吉瀬美智子と山口紗弥加の弾けっぷりも、ピタリと作品世界にハマって、『のだめ』ワールドを構成する重要なファクターとして機能している。
 作品トータルの製作ベクトルと同様、みんな役柄にきちんと向き合っていて、なだぎ武、チャド・マレーン、竹中直人ら芸人勢の“うざったさ”を帳消しにしてくれる。

 そりゃあ確かに1本の映画として上質とはいえず、映画としての完成度や格の点では、たとえば『4分間のピアニスト』などの足元にも及ばない。高い点数をあげるわけにはいかないデキだろう。
 けれど「音楽ギャグマンガ『のだめカンタービレ』を、映像化作品としてちゃんと1つの形に仕上げよう」という確かな意識とベクトルがあり、それが誠実さとなって、ブレのない、感動できる映画へと結実している。

 実をいうとあまり期待していなかったのだが、思いのほか「よくできている」と感じることのできた作品だ。

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