ヤング@ハート
監督:スティーヴン・ウォーカー
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3
【お爺ちゃん&お婆ちゃんの合唱隊】
1982年、アメリカ・マサチューセッツ州のノーサンプトンで結成されたコーラス隊。平均年齢は80歳、でも歌うのはレディオヘッドにザ・クラッシュ、ソニックユースにジェームズ・ブラウンなどロックでパンクでファンキーなナンバーだ。老人ホームから練習場に通い、練習場から病院へと向かう。難しい歌詞とリズムに戸惑い、病に倒れる仲間を気遣いながらリハーサルを続ける。「ヤング@ハート」の7週間を追ったドキュメンタリー。
(2007年 イギリス)
【進み続けよう】
音楽の持つ力を、これほどストレートに描き出した映画は少ない。
コーラス隊のメンバーは、この歳になってまだ「世界が広がるから」といって歌う。オーディエンスの顔には自然と笑みが浮かび、手を叩き、シートから立ち上がって踊り出す。
たとえば「お年寄りばかりのコーラス隊が頑張っている姿」という見た目以上のもの、あるいは「若さを保つため」といった理由より以前のもの、すなわち「いままで知らなかった曲と出会い、仲間と歌い、会場が一体となって幸福を味わう」、そんな、音楽の持っている根源的パワーに触れられる作品だ。
ボブ・シルマン(設立者)の選曲が、またいい。レディオヘッド、ザ・クラッシュ、ソニックユースといえば現代ロックを代表する(つまり“いい大人”なら眉を顰めるような)ミュージシャンたち。
その楽曲たちは、音楽シーンも、聴く人の人生も、すべての時間が現在進行形で動いていることを強烈に意識させる。
昔聴いた曲ではなく、いま生まれた曲を、いま生きている人が歌うという行為にこそ、音楽の真髄はあるのだと感じさせる。
しきりに使われる「go on」という言葉からもわかる通り、音楽にも、それを歌う人にも「進み続ける」力があるのだ。
年寄りだって生きているんだぞと叫ぶ「Staying Alive」が楽しい。あれだけ苦労した「I Got You (I Feel Good)」の本番での弾け具合が痛快だ。大きなメッセージ量を誇る「Yes We Can Can」も耳に残る。
とりわけ、亡き友への想いと人生そのものへの哀切と希望がたっぷりとこめられた「Fix You」が素晴らしく、また人間すべてへの応援歌である「Forever Young」も心に響く。
いま心で作られ、いま心で歌い、いま心で聴く曲の数々は、やがて普遍的な価値を持つものになっていくのだと実感できる。
正直にいえば、微妙にリズムや音程のズレた“ヤング@ハート”の歌とダンスは滑稽である。だが同時に「いままで知らなかった曲と出会い、仲間と歌い、会場が一体となって幸福を味わう」姿がカッコよくもある。
ま、もともと人間そのものも、いいたいことをメロディーに乗せて歌うという音楽も、人前で歌うという行為も、滑稽で、けれどカッコいいもの。そんな事実を、対象者に極めて近い距離からうつしとった素敵な映画である。
それにしても、世界にはまだまだいい曲がたくさんあるんだなぁ。
●コーラス隊メンバー
ジョー・ベノワ/ヘレン・ボストン/ルイーズ・カナディ/エレイン・フリッグマン/ジェーン・フロリオ/レン・フォンテーン/スタン・ゴールドマン/ジェアンヌ・ハッチ/アイリーン・ホール/ドナルド・ジョーンズ/フレッド・ニトル/ノーマ・ランドリー/ジョン・ララレオ/パトリシア・ラレース/ミリアム・リーダー/パッツィ・リンデルメ/ブロック・リンチ/スティーヴ・マーティン/ジョー・ミッチェル/ドラ・B・モロー/グロリア・パーカー/リリア・パトリデス/エド・レホール/ジャニス・セントローレンス/ボブ・サルビーニ/ジャック・シュネップ
●バンドメンバー
ジム・アルメンティ/ビリー・アーノルド/クリス・ヘインズ/F・アレックス・ジョンソン/エド・ワイズ/スティーヴ・サンダーソン
●スタッフ
ボブ・シルマン(指揮・指導)/ダイアナ・ポーセラ
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