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2010/05/18

モンテーニュ通りのカフェ

監督:ダニエル・トンプソン
出演:セシル・ドゥ・フランス/ヴァレリー・ルメルシェ/アルベール・デュポンテル/クロード・ブラッスール/クリストファー・トンプソン/ダニ/ラウラ・モランテ/スザンヌ・フロン/フランソワ・ロラン/ギョーム・ガリエンヌ/アネリーゼ・エスメ/フランソワーズ・ラピン/ミシェル・ヴェイエルモーズ/ダニウル・ベノワン/シドニー・ポラック

30点満点中17点=監3/話4/出3/芸4/技3

【パリ8区、カフェの給仕と歩み出す人々】
 大好きな祖母のもとを離れてパリに出てきたジェシカは、モンテーニュ通りの“カフェ・ド・テアトル”で給仕として働き始める。折しもカフェのすぐ近くでは、人気女優カトリーヌの舞台、世界的ピアニスト・ジャン=フランソワのコンサート、実業家グランベール氏がコレクションをすべて売却するオークションが、明日の開催を控えて準備の真っ最中。各催しの関係者はそれぞれの悩みを胸に抱えながら次々とカフェを訪れるのだった。
(2006年 フランス)

【トテモバカ、トテモキレイ】
 作りに、さほど目を瞠るものはない。パリの朝と夜を大きく見渡すカットは美しく、陽気なポップスからベートーベンまでサントラも実に楽しいが、登場人物たちの悩みや葛藤やドタバタを丁寧かつ生真面目に拾っていくだけの映画、といえるだろう。

 ただ「相手と向かい合っているような、心地よい距離感」で対象となる人物をうつしているのがポイント。原題は『FAUTEUILS D'ORCHESTRE』で「オーケストラの肘掛け椅子」の意。作中で語られる「近すぎず遠すぎず、ちょうどいい距離で舞台を見られる場所」を具現化するような撮りかたとなっているわけだ。

 そして、散りばめられたセリフの数々が素晴らしい。やや大仰で、ナマの生活で使われる生きた言葉ではないかも知れないが、人が生きるために必要な心構えへの示唆に富む言葉たちだ。
 確かに人生には「売ることはできても買い戻すことはできない」ものがあふれている。
 なるほど「電話が鳴ったときに『誰だよ』と腹を立てる人と『誰かしら』と心を躍らせる人、2種類がいる」のも事実だろう。
 男と女の真剣な会話は「宣戦布告と愛の告白を同時にする」ようなものであるはずだ。
 中でも印象的なのが、ジャン=フランソワがピアニストだと聞いて「運のいい人ね」と応えるお婆ちゃん。夢を実現する人がいかに少ないか、あるいは、ほんのちょっとした運で人生は左右されるのだということを語る、いいセリフである。

 でも本作の登場人物たち、そのお婆ちゃんを除けば、誰も胸を張って話しているわけではない。むしろ自身を否定する者ばかり。
 ジャン=フランソワはコンサートが演奏家と人々との距離を遠くしていると悩み、カトリーヌは「自分では望まないけれど周囲からは望まれている仕事」と「やりたい仕事」の間で空回りして自己嫌悪に陥る。病を抱えるグランベール氏は所在なさげにポットのフタをいじり、腰痛のフレデリックは無力感に苛まれる。
 ヒロインのジェシカも含めて、みんな将来への不安に怯えている。

 幸いにも彼らは、そこで堂々巡りをするだけでなく、一歩を踏み出そうとする。思えば女性を雇わないカフェがその伝統を破ってジェシカを働かせる冒頭から、またはブランクーシの『接吻』が示す「余計なものを削ぎ落としてただ抱き合う姿」からも、本作のテーマは明らかだった。
 とりあえず思った通りに行動してみろ。いらないものは捨ててみろ。いまの環境に我慢することも満足することもやめよう。「オーケストラの肘掛け椅子」を見つけるためには何度も失敗しなければいけないように、自分にとって“ちょうどいい場所”にたどり着くまでには、回り道なんて当たり前なのだ。
 それぞれが踏み出す姿を、並行して描く大団円が暖かい。

 ジャン=フランソワはピアニストを「トテモキレイ、トテモバカ」と評するけれど、彼も含めて、失敗と回り道を繰り返しながら「オーケストラの肘掛け椅子」を目指す人の生きざまは「トテモバカ、トテモキレイ」なものだと思う。

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» モンテーニュ通りのカフェ Fauteuils d'orchestre [映画って面白いですね。]
「モンテーニュ通りのカフェ」 (Fauteuils d'orchestre) は、2006年のフランス映画。コメディ/ヒューマン・ドラマ/恋愛 映画。 女の子達が憧れるパリってこんな感じ?というようなパリの人間模様が描かれている映画です。演劇、芸術、音楽の集まったその一角で、人生の…... [続きを読む]

受信: 2011/12/10 17:05

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