ワン・デイ・イン・ヨーロッパ
監督:ハネス・シュテーア
出演:ミーガン・ゲイ/リュドミラ・ツヴェトコヴァ/アンドレイ・ソコロフ/オレグ・アサデュリン/ヴィタ・サヴェル/フロリアン・ルーカス/エルダル・イルディズ/ニュライ・サヒン/アーメット・マムタズ・タイラン/ペーター・シェラー/ミゲル・デ・リラ/モニカ・ガルシア/ヴィクトール・モスケイラ/ブランカ・カンダン/パトリシア・デ・ロレンゾ/ラシダ・ブラクニ/ボリス・アルケア/キルステン・ブロック/トム・ヤーン
30点満点中17点=監3/話4/出4/芸3/技3
【4つの都市、4つの事件】
モスクワで強盗に遭ったイギリス人のケイトは、老婦人エレーナに助けられる。イスタンブールではドイツの学生ロッコが保険金目当ての狂言強盗を計画、タクシー運転手のセラルと警察へ。サンティアゴ・デ・コンポステラではハンガリーの歴史教師ガボアが、カメラを盗まれたとパレイラ署長に訴える。ベルリンではフランスから来た大道芸人のカップル・クロードとラシダが、強盗に遭いそうな場所を探す。欧州CL決勝戦当日の出来事。
(2005年 ドイツ/スペイン)
【世界の中で、生きるということ】
夜の六本木、アフリカ系とヒスパニックらしき青年が「オネーサーン」と日本語で金髪女性をナンパしているのを見たことがある。“世界”を初めてナマで感じた瞬間だったかも知れない。
本作にも、さまざまな人種・民族が登場する。使われる言語も、英語にロシア語にドイツ語、トルコ語、スペイン語、ハンガリー語、フランス語、ガリシア語と多彩。そして、イギリス人とロシア人がドイツ語で会話したり、スペイン人とハンガリー人が英語でフィンランド語について話したり。
世界にはいろんな人が生きていて、だから、ロシアの警察が仕事をしなかったりトルコの警察が高圧的だったりスペインの警官がいい加減だったりドイツの警官が熱心だったり、いろいろあって当然。サッカー観戦者には国によって温度差があり、モノに対する価値観もさまざまなのだ。
舞台となるのは、さびれた町、ゴミゴミした通り、歴史ある聖地、夜の都会。ロケーションも、いろいろ。
あるのは“違い”だけではない。
結局は「待つ」か「あきらめる」しかないという旅先でのセオリー。強いのは女性であり、とりわけおばちゃんであるという真理。お金とドリンクとサッカーと抜け目のなさ。キリストからナポレオン、ヒトラーにいたるまでの「歴史」が、教科書の中だけに存在するのではなく原題の実生活にも影を落としているという事実。移民に対する偏見と不信と差別、知らない町での危険……。
世界、少なくともヨーロッパに共通するコト・モノ・問題がうつし出されていく(4つのエピソードは独立している)。
そうした様子、ヨーロッパの現在を、テンポよく、あるいはちょっと抜けた間(ま)で描いていく映画。スケール感はなく映像の鮮度も低く、打ち込み系が中心の音楽も少々安っぽい。各エピソードでコミュニケーションに使われる言語以外は字幕なしにしたほうが「旅先の不安」をより表現できたんじゃないか、とも思う。
ただ、「こいつらグルかも」「気まずい空気だよなぁ」「なんでやねん」などと感じさせる撮りかた・編集の上手さ、主役たちの置かれた立場を観る者にも体験させる距離感の程よさがあって、楽しい。
会話よりもシーン構成や表情などで“わからせる”“物語を進める”ような作り。このあたり、意思の疎通が上手くできないという設定が、演出とシナリオを一段高いところへ押し上げているといえるだろう。
ちなみにガラタサライとデポルティーボ・ラ・コルーニャが欧州CL決勝で戦ったことはないはずで、つまりは架空の1日。でも、だからこそ「いつか起こっても、またはいま起こっていても不思議ではない出来事」だと思わせる。
で、本作から感じることは、同じ日本人であってもさまざまだろう。この国に行くなら覚悟しなきゃと思うのか、まぁこういうことがあっても仕方ないんだなと腹をくくるか。
ロシア人とポーランド人なんか見分けらんないよと不安にもなれば、連中だって日本人も韓国人も中国人もいっしょくたにしてるだろと開き直ったりもする。「フォンスキー?」には大笑いしたけれど、日本人が諸外国に抱いているイメージも同レベルだろう。
とりあえず、肝心なのは図太さです。ショパンが晩年に住んだアパートの中庭にズカズカと入り込んで、庭掃除のおじさんににらまれたけど、小首を傾げながらの「しょぱんず・らすと・はうす?」で乗り切ってしまった妻が証明しています。
それと本作で語られる「本当に大切なのは、デジカメに残された記録ではなく、ここまで歩いてきた過程だろう」というのも、素晴らしい考えかた。
そんな風に、旅をすること、世界の中で生きることについて、自分の立ち位置を再確認することのできる佳作である。
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