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2010/06/28

ライフ・オブ・デビッド・ゲイル

監督:アラン・パーカー
出演:ケヴィン・スペイシー/ケイト・ウィンスレット/ローラ・リニー/ガブリエル・マン/マット・クレイヴン/レオン・リッピー/ローナ・ミトラ/ジム・ビーヴァー/マイケル・クラブツリー/メリッサ・マッカーシー/エリザベス・ガスト/ノア・トゥルースデイル

30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3

【執行まで、あとわずか】
 死刑制度の廃止を訴えて活動を続けていた哲学教授デビッド・ゲイルは、教え子の企みによって職を追われ、妻子にも逃げられてしまう。さらに同志コンスタンスへの暴行・殺人という罪を犯した彼に下されたのは、死刑判決だった。刑の執行が迫り、ゲイルに指名されて3日間の獄中インタビューへと向かう雑誌記者ビッツィー。彼女と記者見習いのザックは、ゲイルが語った話と新たに手にした証拠から、意外な真相へとたどり着くのだが……。
(2003年 アメリカ/ドイツ)

【愛は世界を救えるか】
 死刑廃止・執行数の減少が傾向としてあるアメリカにおいて、本作の舞台となるテキサス州は、全米でもっとも多くの死刑が執行されている土地。映画内でも「この刑務所では442人の死刑囚がその日を待っている」とのセリフがある。
 さすがに「月に数百人」という中国には及ばないが、年間に確定する死刑判決が20件程度、執行も10人前後の日本に比べれば、かなりの数にのぼるようだ。

 そんな中でゲイルは「夢を抱いてはいけない」とやや悲観的な哲学を引用しながら、死刑廃止という自らの夢を追い、実現不可能に思える夢に立ち向かうためには大いなる犠牲が必要であることを態度で示そうとする。
 全体としては真相究明モノ、後半はタイムリミット・サスペンスというエンターテインメントの体裁を取りながら、死刑制度について疑問を投げかけるのが本作の姿である。

 畳み掛けられる極端に短いカット、BGMのオンとオフ、思わせぶりな人物・出来事の登場などによって、スリリングな空気を盛り上げていく。と同時に本題(事件およびテーマ)と密接な関係を持つ会話とそうでないセリフとを自在に配し、あるいは事件を詳細に描く場面とゲイルの周辺を切り取ったシーンとを巧みにつなぎ合わせて、ゲイルの心境や打ちのめされていく過程、ビッツィーが真相に迫る様子を、きっちりと見せる。

 事件の中にいるゲイル、コンスタンス、ダスティらの心情を余さず表現するケヴィン・スペイシー、ローラ・リニー、マット・クレイヴンの演技と存在感が見事。強気な記者から“ひとりの人”への自然な変化を見せるケイト・ウィンスレットも素晴らしい。

 で、観終えてから気づいたのが、なぜゲイルが死刑に反対なのかはちゃんと述べられていないということ。「執行に際して税金が使われている」とはいうし、死刑賛成論者の知事とも討論をするが、彼の“想い”そのものが言葉にされることはない。

 さて、本作において重要なパーツとして用いられ、ゲイル(および製作者サイド)の“想い”を読み解くヒントとなりそうなのが、ダスティの聴くオペラ『トゥーランドット』。ネットで付け焼刃といこう。

 私への求婚者は3つの質問に正解しなければ死刑、との無理難題を吹っかけて次々と各国の王族を殺してきた美しき姫・トゥーランドット。
 だが彼女に恋をしたある王子は「闇夜に舞う蝶。だが夜明けとともに消えて心に残るもの」を希望と、「たぎり、淀み、冷たくなり、燃え上がり、夕焼けのように輝くが炎ではないもの」を血潮と、「人を燃やす氷」をトゥーランドット姫だと見事に正答。
 それでも結婚したくない姫に対し、王子は「夜明けまでに私の名がわかれば死のう」と提案。姫は「今夜は誰も寝てはならぬ。王子の名がわからなかったらみんな死刑」と、さらなる無理。
 引っ立てられてくるのは、王子に想いを寄せる召使いのリュー。拷問されるも王子の名を明かすことなく自害する。
 ここでようやく姫様も心変わり、王子自身から名前を教わるものの「この者の名は、愛」といって彼を受け入れる……。

 結末は異なるものの、この映画の登場人物の行動や動機の隠喩として『トゥーランドット』が登場することは確かだろう。
 果たして現実世界では、献身と愛情とによって、氷のような姫君の心が溶けることはあるだろうか。

 想いを口にしなかったゲイルだが、印象的な場面はあった。執行前に慣例として出される「食べたいもの」に、彼は愛息と食べたかったパンケーキを選び、笑顔を浮かべるのだ。
 たぶん彼は、ただ家族が笑って食事することができる、そんな世界が欲しかったのではないだろうか。

 そして映画は「真実などない。あるのは客観的判断のみだ」と、コトの是非を観客に委ねようとする。
 いわば「私たちは、こうした。あなたはどう考えるか?」と問いかける作品である。
 ちなみに私自身の死刑観は『コントロール』の感想で述べた通り。死刑反対を唱えながらも、中身は冷たい意見である。

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コメント

こんにちは。映画を観ました。「私たちは、こうした。あなたはどう考えるか?」まさにその通りですね。死刑制度について考えるよいきっかけとなりました。『コントロール』も見てみます。素敵な作品との出会いに感謝です。

投稿: ETCマンツーマン英会話 | 2013/04/09 08:59

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