その男ヴァン・ダム
監督:マブルク・エル・メクリ
出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム/フランソワ・ダミアン/ジネディーヌ・スアレム/カリム・ベルカドラ/ジャン=フランソワ・ウォルフ/アンヌ・パウリスヴィック/リリアン・ベッカー/フランソワ・ビュークリアース/サスキア・フランダース/アラン・ロゼット/ジェシー・ジョー・ウォルシュ
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3
【落ち目のアクション・スター、最悪の1日】
ハリウッドで大成功を収めたアクション・スター、ジャン=クロード・ヴァン・ダム。だが間もなく50歳、体力もそろそろ限界。さらには娘の養育権を争う裁判にも敗れ、出演予定作もスティーヴン・セカールに奪われて、サイフは空っぽだ。1から出直そうと故郷ベルギーへと戻ったジャン=クロードだったが、金をおろそうと立ち寄った郵便局でとんでもないトラブルに巻き込まれてしまう。果たして彼は現実世界でヒーローになれるのか?
(2008年 ベルギー/ルクセンブルク/フランス)
【笑ってしみじみのセルフパロディ】
製作元Gaumontのロゴをパロって、セルフパロディであることを宣言してのスタート。
そしてオープニング、1カットで撮られる大アクションが圧巻。スタントもなし、さすがヒーローは死なず……と思いきや、なぁんか身体のキレはないし、ぜーぜーと息切れはしているし。
まぁ本人もいっているように、47歳なら仕方ないか。
そんな、盛りの過ぎたアクション・スターの“使いかた”、それを撮っているのが打倒ハリウッドの中国(香港)人監督っていうのがおかしい。
その後も、アラブ人に見えないアラブ人テロリストとか、関係者の金の取り分まで計算してみたりとか、低予算映画の作られかたとか、好ましくない電話の切りかたとか、映画のウラ側を皮肉たっぷりに連ねて、徹底してオチョクリ精神を発揮する。
映画ファンなら「あんたがいなけりゃ、いまでもジョン・ウーは香港で鳩を撮っていた」や「セガールが役を得るためにポニーテールを切った」に笑えるはずだ。
どこからどこまで実話かはわからないけれど、ドキュメンタリーに思えてくる空気がそこかしこにある。
と同時に、広角で舞台を動き回るカメラ、モノトーンとセピアの色調、ティンパニーを大胆に使ったBGMなどで、純犯罪映画的なスリリングな雰囲気も作り出す。実に不思議な仕上がりだ。
で、裁判に負けてスッカラカン、おまけに犯罪にまで巻き込まれた(という体裁の)ジャン=クロード。映画と違って「チビ」と笑われるし、生きかたはスマートでもパワフルでもないし、そう簡単にヒーローになれるわけでもない。ただ大人として現実的な対応をするするだけ。弾着もスタントマンもなしだから、最後には死体が転がることになる。
上手くはいかないものだ。
そんなわけで「映画と現実とは違うんだよなぁ」という至極当たり前の人生振り返りと、「いままで俺って何をやって来たんだろう」という悔恨をもとに作られた映画であることは明らか。
ただジャン=クロードは、泣き言をいわない、他人のせいにしない。自分に対する憐れみだけでなく、ここまでの自分を褒めてやろうという想いを抱いていることもわかる。それが立派。肉体よりもこの精神が、空手と苦労で培った彼の財産かも知れない、なんて思ったりする。
そして、たとえヒーローにはなれないとしても彼は彼自身の人生の主役である。スターである前にひとりの人間であり、父親でもある。
落ち目の自分を笑ってはいるけれど、単に自虐的なだけでなく、温かさを感じるラストカットが秀逸である。
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