ブロークン
監督:ショーン・エリス
出演:レナ・ヘディ/メルヴィル・プポー/リチャード・ジェンキンス/アシエル・ニューマン/ミシェル・ダンカン/ウルリッヒ・トムセン/ダミアン・オヘア
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸3/技4
【割れた鏡から、すべては始まる】
父ジョンの誕生日を祝うサプライズ・パーティー。X線の技師として働くジーナは、恋人ステファン、弟のダニエル、その彼女であるケイトとともに楽しい時間を過ごしていた。突如として割れ落ちる鏡。「鏡が割れると不運が7年間続く」。冗談めかしてケイトがいった言葉通り、ジーナは自分そっくりの女性を町で見かけ、そのせいで事故に遭い、ステファンが別人のように思えるようになる。果たして彼女の身に、何が起こっているのか?
(2008年 フランス/イギリス)
★ややネタバレを含みます★
【見せる映画、味わう映画】
デビュー作『フローズン・タイム』は幻想的な画面が印象的なモラトリアム・ラブ・ロマンスだった。今回は一転、恐怖へと斬り込む。
前作でも大きな特徴だった「あかり」は健在。レントゲン写真を見るための透過光、ステンドグラス、ランプ、朝日に裸電球と、ほぼすべてのシーンに光源が置かれる。さらにはハレーションも取り入れ、窓の外まで白く飛ばすという念の入れよう。
ただし色調はグっと落とされ、華やかさや温かみはゼロ。生みだされるのは、ちっとも変ではないのに、どこか不思議な時空。
加えて今作では、オープニングから「狭い範囲を切り取る」という撮りかたが多用される。断片的な記憶をなぞるように、カットも断片的。何も起こらない場面をずっとうつす。何か越しに人が動く。静寂から突然の音、というセオリー通りの作りも見せる。
まぁ『サイコ』まで持ち出したのは“やりすぎ”だったかも知れないし、カプグラ症候群も“いまさら”だが、とにかく、ヒリヒリとして、観る者を身構えさせる、そんな空気の創出が実に上手い。
ラスト直前、現実と“ありえないこと”を無言のまま力ずくで結びつけてしまう「逃げるダニエル」の場面が素晴らしい。
ほぼ出ずっぱりのジーナ役=レナ・ヘディが、いい。さして気張った芝居ではなく、どちらかといえば無表情なのだが、それが、「ああ、そうだわ」と気づく場面での微妙な顔の変化へとつながり、彼女のキャラクターが生きることになる。
で、ストーリーはといえば、たぶん普通のホラーやサスペンスを期待する人には物足りないはず。実際「それだけ?」という話。
けれどこれはお話の意外性や物語としての怖さを楽しむタイプの映画ではない(周囲でも起こりうる? 自分はどっち? という恐ろしさはあると思うが)。
いわば、卓越した空気の作りかたで見せる恐怖を、味わう映画だ。
さて、死体はどうしたんだろうと気になったんだが、そっか、問題にならないのか。向こうに押し込むって手もあるんだろうし。
なにしろ「誰もいなくならなかった」んだから。
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