ホルテンさんのはじめての冒険
監督:ベント・ハーメル
出演:ボード・オーヴェ/エスペン・ションベルグ/ギタ・ナービュ/ヘニー・モーン/ビョルン・フローベルグ/カイ・レムロウ/ペール・イエンセン/ビャルテ・ヘルムランド
30点満点中17点=監3/話4/出4/芸3/技3
【引退した運転士の日々】
ノルウェーはオスロの駅のすぐ近く、セキセイインコと暮らすオッド・ホルテン。トレードマークのパイプをくわえ、約40年間、列車の運転士として勤め続けてきたが、それも今週の土曜日で終わり、引退のときを迎える。ところが金曜の夜の送別会でハプニングに見舞われ、“最後の列車”に遅刻してしまう。さらに、奇妙な出会い、トラブル、別れなど、ダイヤから解き放たれた彼の周りでは、さまざまな事が起こるのだった。
(2007年 ノルウェー/ドイツ/フランス)
【誰にだって、それぞれの人生】
予告や作品紹介から「生真面目な運転士が初めて遅刻してしまったことからスタートするスラップスティック・コメディ」を想像していたのだが、さにあらず。むしろ遅刻は“出来事のひとつ”で、彼が引退前後に体験するさまざまなことを切り取ってみせる映画。
ベント・ハーメル監督は『キッチン・ストーリー』で、提示と解決の妙から生まれるテンポのよさ、見せて伝える演出、立体的な画面構成など、映画的面白さをたっぷりと示してくれた。
今回は少し大人しめ、淡々とホルテンの様子をうつし取っていくだけの作品となっているが、メッセージや隠喩を潜ませ、クスリと笑わせ、考えさせるという語りの上手さを感じられる。
切替機でピタリと合わされるレール、どこまでも続く単線、狭い運転席。ホルテンの“閉じた世界”が表される。
列車、カート、船、自動車。運ぶためのモノと運ばれる姿がうつされ、人生はそういうものだと告げられる。
でも、決められた道を目的地に向かってただ一直線に進むことだけが、人生ってわけじゃない。
そもそも人生なんて、目隠しドライブ。何が起こるかわからない。ちょっと道をそれたり立ち止まったり、いつもとは違う時間に出歩いてみれば、そこには、疑うことを知らない幼い子ども、プールで戯れるカップル、しょっ引かれていくコック……、さまざまな人が自分と同じように、自分とは違う人生を生きているのだとわかる。道ですら、ただ歩くためだけのものではないとわかる。
ホルテンを演じたボード・オーヴェの、ベッドの下に隠れる姿、慌てて逃げ出す姿が、とてもチャーミング。でも、彼自身に強烈な存在感があるわけではなく、歪んでしまったけれど楽しいシセネール氏や、ガラスの向こうでケーキを作る人にも、救急車を待つ人にも、それぞれの人生があることだろう、こうなると誰が主役かわからないな、いや、みんながみんなそれぞれの人生の主役なんだ、と思わせる。
「死も人生の一部」
「人生は手遅ればかり。でも、だからこそいつからでも始められる」
そして結局は、人は行くべきところへ行くのだ。
ならば、とりあえず行きたいところへ行けばいい。勇気を出してスキー台からジャンプして、やれなかったこととやらなかったことに挑んでみればいい。
隕石のように、人生という旅は、まだまだ続く。そんな励ましに、ちょっと癒される映画である。
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