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2010/07/14

P.S.アイラヴユー

監督:リチャード・ラグラヴェネーズ
出演:ヒラリー・スワンク/ジェラルド・バトラー/リサ・クドロー/ジーナ・ガーション/ジェームス・マースターズ/ハリー・コニック・Jr/ネリー・マッケイ/ジェフリー・ディーン・モーガン/クリストファー・ファーレン/ディーン・ウィンターズ/アンネ・ケント/ブライアン・マクグラス/キャシー・ベイツ

30点満点中15点=監3/話2/出3/芸4/技3

【逝ってしまった彼からの手紙】
 ジェリーとホリーは出会って9年、それほど裕福ではなく口喧嘩も絶えないが、いつか家を買って子をもうける日を夢見ながら暮らしていた。だがジェリーは脳腫瘍で天に召され、ホリーはひとり哀しみの中に閉じこもる。夫の死から3週間、30歳を迎えたホリーに届けられたのは、ジェリーが生前用意していた誕生日ケーキ。以来、何通も受け取ることになる彼からの手紙と、親友シャロンやデニースに励まされながら、ホリーは……。
(2007年 アメリカ)

★ややネタバレを含みます★

【甘さのある映画】
 死者から手紙が届く。そのワン・アイディアに肉付けしていくだけで相当に面白いものが作れると思うのだが、どうも煮え切らない。
 天国のジェリーが演出する、想い出の曲とか、やりたくてもできなかったこととか、そのあたりは想像の範囲内。問題はそこに、いかにしてふたりの幸福や後悔を潜ませるか、ジェリーの思いやりやホリーの再生を鮮やかに描けるかという点にあるはず。そこが掘り下げ不足、しかも届く手紙は思ったより少ない。

 たとえば、ホリーがアイルランドに住むジェリーの両親に逢いに行くくだりは、極論すれば「ただ逢いに行くだけ」。もっと早く逢いに来ればよかったとか、たがいにすれ違っていた哀しさとか、彼がここでこういうふうに育ったことをたっぷりと知りたかったとか、そういう“情”の深い部分にはほとんど踏み込んでいかない。

 また、死んだ夫目線で見ると、どうもホリーの姿が「先に死んだ夫として期待する妻の様子」とはかけ離れているようにも思える(まぁ勝手ないいぶんかも知れないが)。
 別にダニエルでもウィリアムでも、最終的に誰とくっつこうが構わない。けれどもう少し節度というか、「この人はジェリーじゃない」という葛藤を見せてくれたっていい。ニヤニヤしながらワイルドなギター弾きに声をかけるのって、ちょっと違うだろう。

 「後からベッドに入るほうが部屋の灯りを消す」という“ふたりだけのルール”があったりとか、「誰かと黙って歩くのもいい」というセリフとか、愛の真理に迫るところもあるにはある。けれど、『カールじいさんの空飛ぶ家』『きみに読む物語』のように、「思い出すたび切なくて、でも確かに幸福だった愛に満ちた時間」を実感できる内容・作りではない。
 タイトルからすれば「追伸でしか愛を語れない照れや悲哀」があってもいいはずだが、それもない。
 要するに、ただ「夫が死にました。その夫から手紙が届きました」というだけ、奥行きも広がりもなく、この手の映画に不可欠な“切なさ”にも欠けるのだ。

 そういう「肉付けに失敗しちゃった話」を、フツーに撮る。せいぜいサントラが華やかなことと、アイルランドの景色が美しいことが耳と目を引くくらいで、ワクワクもシクシクもない。
 監督は『パリ・ジュテーム』の中の1編「ピガール」を撮った人。あちらも「以上でも以下でもない」という凡とした作品だったが、本作も同様のイメージだ。

 そもそもヒラリー・スワンクが「フツーの未亡人」ということに違和感がある。ジェラルド・バトラーが意外と頑張って「妻への愛にあふれる男」を演じていたり、ジーナ・ガーションが「姉御肌の親友」にハマっていたりするのとは対照的に、ヒロインに説得力がないのは、いかにも痛い。
 だからといってヒラリー・スワンク以外なら成功したかといえば、そういうわけでもないだろう。だいたいホリーって何者なの? どんな愛をジェリーに注ぎ、どんな影響を彼に与えたの? そうしたホリーのキャラクター描写も不足しているし、彼女と親友ふたりの結びつきも適当なまま。
 入院・治療のために相当な出費があったはずなのにアイルランド旅行を用意しているとか、仕事を休み続けているのにのうのうと暮らしているとか、そのあたりもリアリティに欠ける。

 ま、ホリーが何者でもないから何者でもない観客も共感できるのかも知れないが、ひとことでいえば“甘い”映画。それは、女の子(というかドラマチックな恋を願う20代OLか)向けでロマンチックな、いわゆる「甘ぁ~い」映画というだけでなく、この程度の浅さで感動させようという考えや作りの甘さも意味している。

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