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2010/08/25

ワールド・オブ・ライズ

監督:リドリー・スコット
出演:レオナルド・ディカプリオ/ラッセル・クロウ/マーク・ストロング/ゴルシフテ・ファラハニ/オスカー・アイザック/アリ・スリマン/アロン・アブトゥブール/ヴィンス・コロシモ/サイモン・マクバーニー/メーディ・ネブー/マイケル・ガストン/カイス・ナシフ/ジャミール・コウリー/ルブナ・アザバル

30点満点中17点=監4/話3/出3/芸4/技3

【ウソと化かしあいの砂漠】
 中近東関連ではナンバー1とされるCIA工作員ロジャー・フェリスは、イラクでの活動中、欧米をターゲットした連続テロの情報をつかむ。ヨルダンへと飛び、現地情報部の責任者ハニと共同でテロ計画の首謀者アル・サリームの身柄拘束に当たろうとするフェリス。しかしCIA中東局のボス=エド・ホフマンの横暴な干渉が、彼を窮地に追い込む。アル・サリームをおびき出すべく、新たな作戦を立案・実行するフェリスだったが……。
(2008年 アメリカ)

【非情が生み出すもの】
 ウソと策謀で塗り固められた作戦。ウソとわかっていながら騙されたフリをし、騙したといって相手を批難するやり口。そうした駆け引きが世界の命運を左右するのだと本作は語る。
 いっぽう、無人偵察機からの空撮で捉えられるフェリスはまるで芥子粒、つまり、取るに足りない存在。どれほど悪戦苦闘しようと、それは「世界の流れの中では、ほとんどないに等しいおこない」だと匂わせる。
 だから、思いやりなど無用。仲間を助けるのは、あくまで貴重な情報・資料を確保するためだ。工作員は使い捨てのコマに過ぎない。科学と汗の融合である捜査や対テロ活動を、そうした“非情”がコントロールしている事実も告げられる。
 そう、この世界では誰も信用するべからず。ただ、どんな風に役立つか、どう動かせばいいのかだけを考えればいい。そんな物語。

 冒頭から気合いの入ったシーンが続く。決してドンパチ場面が多いわけではないが、イギリスやオランダでの爆破、カーチェイスとヘリによる爆撃、銃撃戦などは迫力たっぷりだ。
 音楽は『プロヴァンスの贈りもの』『アメリカン・ギャングスター』でもリドリー・スコットと組んだマルク・ストライテンフェルト。民族色の強い旋律にサスペンス味の低音が混じるサントラが緊迫感を煽る。アレクサンダー・ウィット(『バイオハザードII アポカリプス』)の撮影もシャープで、アラブ世界を空気感豊かにすくい上げる。細かな音を拾い上げることで臨場感ももたらされている。
 各パーツがしっかりとしていて、1つのパッケージとして水準以上にある映画といえるだろう。

 とはいえ、意外とワクワクは少ない
 ストーリー/シナリオはシンプル、「いかにしてアル・サリームを確保するか」だけに集中している。それは悪くない。が、ウソを主題としていながら、それをショッキングに提示するヒネリや“驚かせ”が足りないのだ。
 まず、ストレートな思考・行動で観客を騙さないロジャー・フェリス=レオナルド・ディカプリオが、たとえば『ブラッド・ダイヤモンド』を観た後では人物としての奥行きにも魅力にも欠ける。その左右にホフマンとハニを置くだけ、アル・サリームは追われる対象、という構図では、事件に絡む思惑がちょっと少なすぎるだろう。
 ヨルダン駐在員のガーランドが余計なことをしたり、アイシャ(ゴルシフテ・ファラハニは魅力的だが)との関係に「ウソの是非」を盛り込んだりなど、もっと枝葉があればさらに面白くなったのではないか。

 唯一、キャラクター造形や描かれかたとしてユニークなのがラッセル・クロウのエド・ホフマンだ。
 常にイヤホンを耳にし、雑事に追われながら、まるで片手間のように作戦を進める。ただし“やっつけ”というわけではない。
 彼にあるのは「結果のために経過は選ばない」という価値観。誰が手柄を立てようが、誰が失敗しようが、一向に構わない。そんなもの、彼自身の口癖である「どうでもいい」こと。とにかく、アメリカにとって邪魔なヤツさえ始末できればOKという、ある意味シンプルな律によって行動している。
 たとえば『24』あたりなら、家族への愛と対テロ活動の危険な任務とを密接に関連づけながら描くはず。『キングダム/見えざる敵』『マイティ・ハート/愛と絆』も、国家間または宗教間の対立の裏にある「人としての相互理解の欠如という哀しみ」、すなわち“情”の部分に突っ込んでいく作品だった。
 ところがホフマンは、そんなものはハナっから無視して、ただ単純かつドライに「テロ=悪」「自分の仕事=悪の退治」と割り切って、必要な事を進め、そして成功させる。

 その単純&ドライな“非情”が複雑&ウェットな事態を生むという皮肉こそが、実は本作のテーマなのかも知れない。

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