奇術師フーディーニ ~妖しき幻想~
監督:ジリアン・アームストロング
出演:ガイ・ピアース/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ティモシー・スポール/シアーシャ・ローナン/ラルフ・ライアック/アンソニー・オドネル/マッケイ・クロフォード/リチャード・ディーン/アラン・デイヴィッド/ジャック・ベイリー
30点満点中18点=監3/話3/出4/芸4/技4
【天才奇術師の心は、何を望む?】
数々の脱出術で世を魅了する天才奇術師ハリー・フーディーニ。彼は世界へ向けて「亡くなった最愛の母は、死の床である言葉を遺した。私だけが知るその言葉がわかった者には1万ドルを進呈しよう」と告げる。この謎に挑戦するのは、インチキ交霊術で稼ぐエディンバラのメアリー・マクガーヴィと娘ベンジー。だが次第にフーディーニとメアリーとの距離が縮まり、フーディーニのマネージャー・シュガーマンとベンジーは気を揉むのだった。
(2007年 イギリス/オーストラリア)
【人が求めてやまないもの】
ガイ・ピアースは、交霊術に執着しながらもその向こうに悲しみを見ている奇術師ハリー・フーディーニを好演。キャサリン・ゼタ=ジョーンズは、おばさんの色気と影としたたかさと弱さとを巧みに操る。猜疑心にあふれ、けれど芯の通った紳士でありフーディーニの友人でもあるシュガーマンを、ティモシー・スポールがサラリとこなす。
そしてシアーシャ・ローナン。ちょっと垂れた目、やや大きめの鼻、どこか少年っぽい面影がラブリー。まだまだ子役芝居ではあるけれど、いっぽうでスっと母に寄り添う際の身のこなしには“女優”が漂い、確かに将来性ある素材だと感じさせる。
これらキャストは、いずれも適役、本作最大の魅力といえるだろう。
演技陣を、しっかりした作りが支える。
脚本は『ローズ・イン・タイドランド』のトニー・グリゾーニと『ザ・インタープリター』原案のブライアン・ウォードで、幻想と現実のバランス感覚に優れたシナリオが作り出されている。
撮影監督は『マンマ・ミーア!』や『スルース』のハリス・ザンバーラウコス。空間・舞台を実感させるスケールと格のある絵を実現するとともに、人の向こうに人、モノの向こうに人という奥行きを重視、「見えているものの陰には、常に何かがある」という本作のテーマを映像で表現する。
プロダクションデザインは『ネバーランド』のジェマ・ジャクソン、衣装は『ミリオンズ』のスザンナ・バクストンで、1900年代前半のセピア&瀟洒な世界を作り、チェザリー・スカビスゼウスキーはスコットランド色の濃いサントラで物語を盛り上げる。
いずれも良質な仕事ぶりだ。
作品トータルのイメージとしては、史実をベースとしつつ、ベンジーを重要な役に据えることで青春映画の雰囲気を出し、ヒネった言葉が連ねられるナレーションには文芸っぽい色合いもあり、もちろんオカルトや「どうやって母娘はフーディーニの謎に迫るのか?」というスリルも盛り込まれ、と、結構ニギヤカ。これらの要素を手堅くミックスしており、テンポもよく、意外とメジャーな雰囲気で観やすく作られている。
が、本質は恋愛映画。恋や愛と思われるものの裏に潜む感情、あるいは愛と天秤にかけられるものの存在に迫る。「運が良ければ汗ばんだシーツの中に真実の愛を見つけられる」なんていうシニカルなセリフがあり、“相手が与えて欲しいと思っているものを与えるのが愛”ということに幼い心で気づいたベンジーが人生の皮肉を演出する。そうやって、恋愛の真理を匂わせるような作品だ。
原題は『Death Defying Acts』。直訳すれば「死をものともしない行為」となり、フーディーニの脱出術をさすが、「何もかもを奪う『死』というものに抵抗するための、逝ってしまった人との心の交流。それを実現する術としての交霊」という意味もあるはずだ。
確かにそれは人が求めてやまないものではあるが、手にしてはいけない秘術でもあるだろう。そんな、人の悲しい欲望を、軽快かつ手堅く見せてくれる映画である。
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