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2010/10/21

Sweet Rain 死神の精度

監督:筧昌也
出演:金城武/小西真奈美/光石研/石田卓也/村上淳/田中哲司/奥田恵梨華/唯野未歩子/小野花梨/嶋田久作/菅田俊/川岡大次郎/森下能幸/みれいゆ/ディア/吹越満/富司純子

30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3

【死神が見つめるもの、いまだ見ぬもの】
 彼は死神、名前は千葉。彼が“仕事”をする日は、いつも雨。仕事とは、不慮の死を迎えようとしている者に近づいて「実行」か「見送り」かを判定することだ。クレーマーからの執拗な電話に悩まされている電機会社のOL藤木一恵、兄貴分の仇を討とうとするヤクザの藤田と彼を止めるのに懸命な舎弟・阿久津、海辺で理容室を営む老女から千葉への奇妙な依頼……。ミュージックをこよなく愛する死神と、寄り添う黒い犬、対象者たちの物語。
(2007年 日本)

★ネタバレを含みます★

【どうしても変わらぬ生。どのようにでも変わる生】
 死神=千葉=金城武がタイトルロールではあるが、間違いなく本作の中心にあるのは、藤木一恵というひとりの女性と彼女の人生だろう。
 自信なさげに、ほとんど絶望の中だけで生きていた人間が、運命の不思議という波によって大きく舵を切り、それでも理不尽な死は彼女についてまわるのだけれど、最終的には達観からか諦観からか満足からか、気風のよさと笑顔へいたる。
 たとえばもし彼女の上司が、彼女が望む通りクレーマーに対して何らかの策を打っていれば、彼女の人生はどうなっていたことだろう。

 そんな「どうしても変わらぬ生。あるいは1つのキッカケで、どのようにでも変わる生」が本作のテーマであり、それを具現化したのが藤木一恵という存在であるはずだ。

 また、魚たちの死は人間のそれに比べてないがしろにされ、不死たるアンドロイドはただ記録と使役のために用いられ、死神は寿命を縮めるものであるタバコを吸い、と、“シニカルに捉えられた命”とでもいうべきファクターが散らされる。
 どれが重要というわけではない。どれかが余分というわけでもない。

 たぶん、こうすれば早死にする、命に軽重などない、限りある生だからこそ意味がある、人生に意味などない、生きていれば何かいいことが起こる、人は変われる、人は変われない、運命は不変である、運命は自ら切り拓くことができる……など、生と死にまつわるさまざまな価値観は、それぞれがみな正解なのだろう。
 それらのうち、自分の身近にあるもの・いる人・出来事などをもとに個々が「私だけの価値観」を選択し形成していくに過ぎない。あるのはただ自分の人生の途上や目の前に存在する事実のみ、というだけのこと。

 ただし結局のところ、死なない者などいない。そして、死すべき運命から逃れることができないのならば、思いもよらなかった流れに身を任せて新しい世界へと踏み出してみるとか、何よりも大切な仁義を貫くとか、愛する者への意地を張り通しながらも少しだけ自分を慰めてみるとか、めいめいが思い思いの生を、「どうしても変わらぬ生。あるいは1つのキッカケで、どのようにでも変わる生」を、楽しめばいい。
 その果てには、雨の上がる日が訪れるかも知れない。

 部分的に安っぽい展開があり、1つ1つのセリフの質にも稚拙さを感じないわけではないし、説明に頼っている箇所もある。が、死神の音楽好きから派生する伏線、同僚の死神たちが果たすユニークな役割など意外性にも満ちていて、3つのエピソードの結びつけかたもマズマズ。

 千葉と犬との会話の処理方法はコミック向けに思えるし、もっと寄ってアクセントを作って欲しいな、テンポにもう少し切れが欲しいなと思わせるポイントも多い。第一エピソードで80年代~バブル期の野暮ったさを出すのはいいけれど、それ以後も狭苦しさの勝った画面になっている。
 いっぽうで、人物を端に寄せたりなど1カットずつ雰囲気のある絵にしようという意志もまた感じられるし、全体にアンダー気味にしたのもラストを思えば妥当な作り。CGも頑張っている。

 安い芝居の者も何人かいる。けれど、金城武のアヤシイ日本語は死神の役に合っており、小西真奈美は美しく儚げで、飄々とした村上淳は楽しく、光石研には安定感が、石田卓也にはバカ特有の懸命さがある。さすがに富司純子は上手いし、奥田恵梨華は出ているだけで満足だ。

 と、いい部分も拙い部分も混ざったデキ。17点に近い16点という評価としたが、「どうしても変わらぬ生。あるいは1つのキッカケで、どのようにでも変わる生」という大テーマを感じることができて、印象としてはいい作品だ。
 少なくとも、ラストで“ちゃんとした青”を見せてくれたことには拍手を送りたい。これが煤けた青だったら、本作への好印象はゴッソリと削がれていたことだろう。

 さて、その青空は何を意味するのか。きっと「死神の心境が変わった」わけではない。これまでの雨続きは偶然、この日晴れたのも偶然。生死を超越しているはずの千葉自身もまた「どうしても変わらぬ生。あるいは1つのキッカケで、どのようにでも変わる生」の中を歩んでいるだけだったのだろうと思う。
 つまり、青空に意味なんてない。あるのはただ、そこに青空が広がっていて、それは美しいという事実だけなんである。

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