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2010/10/25

HACHI 約束の犬

監督:ラッセ・ハルストレム
出演:リチャード・ギア/ジョアン・アレン/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/サラ・ローマー/ジェイソン・アレクサンダー/エリック・アヴァリ/ダヴェニア・マクファデン/ロビー・サブレット/ケヴィン・デコステ/フォレスト/レイラ/チーコ

30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3

【教授とハチ】
 郊外にあるベッドリッジ駅、毎朝同じ列車に乗り、毎夕同じ列車で帰ってくる大学教授のパーカー・ウィルソン。ある日パーカーは、壊れた荷物とそこから逃げ出したらしい小さな秋田犬を見つけ、自宅へと連れ帰る。最初は反対していた妻のケイトも、楽しげな夫と、すぐパーカーになついた子犬の姿を見てやがて許すようになった。ハチと名づけられた犬は、毎朝パーカーを駅まで見送り、毎夕駅まで迎えに行く。が、そんな幸せは突然……。
(2009年 アメリカ/イギリス)

【犬好きたちが作った映画】
 最初に監督として起用され(かかっ)た人物は、ハチに喋らせようとしたらしい。『シャーロットのおくりもの』みたいな感じか。しかも闘犬キャラという方向性で撮ろうとしたそうな。
 プロデューサー陣は「そうじゃないっ!」と憤慨、監督はラッセに交替。でも北米ではDVDストレートとのこと。IMDbのユーザーレビューを見ても、感動の声を寄せているのは、在日外国人のほか、クロアチアとかモルドバからだったりする。
 思えばギア様も属性はアジアだし、ラッセもスウェーデン人。純アメリカンな人には物足りないストーリーなのかも知れない。

 ともかくも、我ら日本人が知るハチ公物語は穢されずにすんだ。そしてラッセは、『サイダーハウス・ルール』『アンフィニッシュ・ライフ』ほどの深みはないけれど、オーソドックスに、丁寧に、静かに、この監督らしい引き算と足し算の優れたバランスをもって、しっとりとした映画に仕上げてくれている。

 ウィルソン家の過去は、すっ飛ばし。いきなりハチと出会う。パーカーが死んでからの描写も、比重としてはかなり低い。
 でも全体の流れの中で自然と、パーカーの仕事、彼と街との関係、ケイトの仕事や価値観、彼女と街や家との関係などを澱みなく描いていく。時おり挿入される犬視線によってハチと一家とはシームレスにつながり、また、命をめぐるこのお話は、テーマ性そのままに孫の代までつながっていくという構成にもなっている。

 そう、“関係性”や“つながり”という軸があるから、映画がブレない。
 たとえば、まず娘アンディのボーイフレンドとしてマイケルの名前だけ出して、次に彼をホームパーティーに呼んで、結婚式ではみんなで写真(ハチがウィルソン家に溶け込んでいるのが素晴らしい)に収まる、という流れがある。マイケルが少しずつ家族とつながり、少しずつ家族の一員になっていく雰囲気が出ていて、なかなかに微笑ましい。

 パーカーは常にハチへと話しかけていて、それもまた生き物どうしの“つながり”を感じさせるのだが、駅への道と駅前では、みんながハチに声をかけ、人間どうしも語り合っている。現代的コミュニティに欠けている“つながり”の温かさを、強く意識させる。
 このあたりに関してもっとも好きなのは、肉屋の夫婦の様子。妻は「旦那には内緒だよ」とハチに肉をあげ、夫は「女房には内緒だぞ」とハチに肉をやる。最小単位の社会である家族というものが、ハチという潤滑剤を介して街コミュニティへと溶け出し、より大きな“つながり”へと広がっていく。そんなことを感じさせる、いい場面だ。

 空気作りだけでなく、語り口も上々
 大きくなったハチの見せかたには「!」があり、勝手に家から抜け出したハチの姿の後には列車の車輪をアップで捉えて「危ないんじゃないの?」と観る者に思わせる。そのリズム感がいい。
 ウィルソン家の芝生が季節によって青々としたり枯れたり、駅前ロータリーの木の様子で時間の流れが示されたり、これもまたいいリズム。
 新聞記者が、ハチの写真は何枚も撮り、駅員カールの写真は仕方なくパシャリと1枚だけ。そういう細やかなユーモアも効いている。

 そんな温かさあふれる各場面のバックに流れるのは、なぜか短調。幸せに隣接する不幸を予感させるのだけれど、いっぽうで、不思議と心休まるメロディでもある(音楽は『扉をたたく人』のヤン・A・P・カチュマレク)。
 キャストでは、もちろんハチを演じた犬たちの好演も大きいが、ナチュラルな犬バカっぷりをたっぷりと撒き散らすリチャード・ギアが可愛い。たぶん本当に犬が好きなんだろう。

 犬が好きだからこそ、“つながり”の大切さも理解しているし、人間が犬に与えるものより犬が人間に与えてくれるもののほうが大きいということもわかっている。そうしたことが伝わってくる、優しい映画である。

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