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2010/10/24

アマルフィ 女神の報酬

監督:西谷弘
出演:織田裕二/天海祐希/戸田恵梨香/大塚寧々/伊藤淳史/佐野史郎/小野寺昭/平田満/大森絢音/ロッコ・パパレオ/アリス・パラッツィ/ダビデ・ロリーノ/アンドレア・ジェルペッリ/サラ・ブライトマン/福山雅治/佐藤浩市/中井貴一(声の出演)

30点満点中15点=監3/話2/出2/芸4/技4

【ローマ邦人誘拐事件に隠された真実と悲劇】
 国際外相会議とクリスマスが迫るローマ。川越大臣による重要な発表も予定されており、日本大使館は準備に追われていた。そんな中、旅行客・矢上紗江子の娘まどかが何者かに誘拐され、対テロ専門家という裏の顔を持つ外交官・黒田康作は着任早々この事件に関わることとなる。地元警察や大使館職員の安達らとともに犯人逮捕・まどか保護のため奔走、だが犯人に振り回され続ける黒田。誘拐事件の陰には、ある秘密が隠されていた……。
(2009年 日本)

【失敗の中から学ぶもの】
 野暮ったさというか、こういうものを撮り慣れていない感じが出てしまっているのは確かだろう。
 画質は、ややベッタリとして平面的、スミっぽさも残る(撮影は『フラガール』『のだめカンタービレ』の山本英夫)。「アマルフィ 画像」で検索すると出てくるいかにも地中海(ティレニア海)的な青や、ローマにあるはずの陰影を豊かに捉えているとはいいがたい。

 何も起こらず何も伝えない、というシーンも多いように感じる。「本来なら5カット欲しいところを3カットですませ、3カットでいいところを5カットにしている」というイメージもある。
 また、これはあくまで個人的・感覚的なものかも知れないが「寄りと引きが逆だろう」と感じるカット構成も目につく。画面への人物の収めかたも日本的・TV的なスケールだ。

 国際的ポリティカル・サスペンスを描くのに必要な“遺伝子”を、明らかに日本人は持ち合わせていない。そんな風に感じさせる仕上がりだ。

 ただ、だからといって「こういう題材を選ぶのは間違い」ともいいたくはない。チマチマとしたものばかり撮るのではなく、少しばかり無理目でも、果敢に挑戦し、“体臭”を身につけていくことは大切であるはず。その積み重ねの成果として“遺伝子”を手にする時が訪れる。だから、まずは“形”から入ろう。
 そういう観かたをすれば、そこそこ頑張っている。
 たとえばイタリアでのオールロケにしたのは正解。でなければウソ臭さばかりが目立ったことだろう。イタリアらしい風景はそこそこ生かされているし、夜の色合いは思ったよりいい。
 細かなカット割は(感覚的に自分と合わないことを割り引けば)手間ひまをかけて撮影したことをうかわせるし、スピード感の創出にもつがながっているとはいえる。音楽にもそれなりにスケールがあり、その場の空気をすくい上げたり音のオン/オフで緊迫感を出したりなどサウンドメイクの仕事は全体に上質だ。

 よって前述の通り、なんとか「日本人にも国際的ポリティカル・サスペンスを撮れるんだ」という気概を発揮しようとした空気はある。

 決定的に拙いのはシナリオだ。
 犯人の行動は、もうハナっから不自然。込み入った計画だって、あれだけの技術があればもっと効率のいい方法もあっただろう。
 謎を解く側の黒田の行動もまわりくどく、そもそもこの事件にノメリこむ動機が希薄。窮地に陥った際に彼が取る強硬手段は、ジャック・バウアーなら許されても大使館員だと苦笑しか呼ばない。それを笑って許しちゃう現地警察って、どうなのよ。
 矢上のキャラクターは娘が誘拐された母親に見えず、安達は大使館員とは思えぬほど幼くて支離滅裂。その他の登場人物は、何のために出ているのか不明な者が多い。

 犯人に振り回される黒田と矢上の描写にほぼ終始し、この種のストーリーに面白さを与える「複数エピソードの絡み」という配慮もナシ。「これこれこうでした」という説明の多様も気障り。娘の目の病というファクターは、お話に何の深みももたらさない。

 要は、リアリティ不足、ディテールの欠如、空回り。

 また、気になったのは、身代金を用意した黒田が「無駄遣いは外交官の特権」と言い放つ場面。おいおい、誘拐された子どもを助けるための金が無駄遣いですか。

 シナリオの拙さ、不出来なキャラクター設定が、役者たちには不利に働いたのだろう。
 織田裕二は、考えたうえでの堅苦しい芝居、黒田を主人公とするシリーズを作りたい的な意気込みも見えるのだけれど、いかんせん「お前、ただ理由もなく無茶してるだけやん」という印象しか残らない。天海祐希の矢上も、気が強いんだか弱いんだか、物わかりがいいんだかパニクってるんだか。佐藤浩市の藤井なんか、本来ならもっと感情の起伏を丁寧に拾ってやるべき役柄なのに、浅い人物としかうつらない。
 イタリア人キャストも、どことなく安い。

 つまりは、ハッキリいって失敗作
 でも、一応は最後まで観られるクォリティは保っており、「どこがマズいのか」「どこが評価できるか」と考えることはできる。
 重ね重ね、こういうことに挑戦していくことは大切なのだ。

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