ラーメンガール
監督:ロバート・アラン・アッカーマン
出演:ブリタニー・マーフィ/西田敏行/余貴美子/パク・ソヒ/タミー・ブランチャード/ダニエル・エヴァンス/ガブリエル・マン/前田健/岡本麗/石井トミコ/石橋蓮司/山崎努
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸4/技2
【言葉の通じない国でラーメン修行】
恋人イーサンを追ってはるばる東京までやって来たアビー。けれどイーサンにはその行為が「重い」といわれ、勤め先の法律事務所で与えられるのも退屈で意味のない仕事ばかり。自分を見失いかけたアビーは、幸せな気分にしてくれる一杯のラーメンと出逢い、店主マエズミに弟子入りを願い出る。マエズミの妻レイコや常連客に見守られて、頑固ですぐ切れる親父と“マイセルフ”を貫く金髪娘、言葉が通じないふたりの、魂の修行が始まった。
(2008年 アメリカ/日本)
【思っていたよりは、いい】
意外と誠実。というか「アメリカ資本&アメリカ人監督による日本が舞台の映画」という状況から危惧されるマヌケさは、思っていたより少ない。
マエズミの店やアビーの住むマンション、軽トラ、有線で流れるサブちゃん、ライバルのウダガワが着る制服まで、すべてが日本っぽい美術(いや、それが“当たり前”なんだけれど)は上々。トンデモなのはトシの部屋くらいで、全体として、下手にスタイリッシュに見せようとしていない点が逆に好印象を与えている。
不自然さのない日本語セリフの数々も含めて、やはり制作の中枢に日本人がいるのといないのとでは(監督の活動のベースが日本にあることも大きいだろう)、仕上がりが違う。
マエズミが英語を話せない、アビーも日本語を話せない、けれど通訳は登場しない、という設定も秀逸だ。
常連客に英語の先生でもいれば、それはまたそれで別のスマートな展開も作れるのだろうが、この「わかんない」から派生する“自分勝手”のぶつかり合いが、不思議な雰囲気を醸し出し、“マイセルフ”へとつながって、本作の魅力を生み出していることは間違いない。
主演ふたりも魅力。
ブリタニー・マーフィは相変わらず可愛くて、まだ何者でもない女性を等身大で演じる。ホント、惜しい人を亡くしちゃったなぁ。西田敏行は完璧なハマリ役で、アドリブも交えながら勢いで突っ走る。師匠と弟子による「得体の知れぬ衝突」が、パワフルに映画を引っ張っていく。
余貴美子が漂わせる女房としての空気、スパイスまたは箸休め的な役割をまっとうした前田健、セリフナシの場面でも圧倒的な存在感を示す山崎努もそれぞれいい。
パク・ソヒという「韓国人の両親を持つ日本人俳優」を、そのまんま「韓国にルーツを持つ日本人」として起用したのもまさに誠実。そこに、個人を重視するか社会性や周囲からの期待を重視するか、何のためにこの道を歩むのかといった価値観の鬩ぎ合いを持ち込む。
そこから「どんな状況にあっても、自分にとって大切なものと、相手が求めているものとを考えながら、アイデンティティを確立させていく」という大テーマへ収束させていく空気の流れもマズマズだろう。
それと、マエズミの母が語る「お出しするものが、お客様の一部になる」という言葉が素晴らしい。すべての職業料理人が持つべきこの価値観を発信できたことは、本作の重要な存在意義となるはずだ。
ただ、ラーメン修行の部分や時間経過は描写不足だし、中盤からの進行はやや性急。師匠が弟子に伝えたいこと、弟子がつかんだこと、アビーが独り立ちするラストなど、ストーリーの根幹部がふんわりしすぎていて、テーマを十分に伝える映画になっているとはいいがたい。
また監督ロバート・アラン・アッカーマンは、どちらかといえば舞台演劇をフィールドのメインとする人。そのぶん役者の芝居はしっかり捉えた獲りかただが、映画的コーフンには欠けるデキ。乏しい画角バリエーションと野暮ったい色合いからなる絵(撮影は阪本善尚)もイマイチだ。
だから、せいぜい「思っていたよりは、いい」というデキ。それくらいのスタンスで接するべき作品ではあるだろう。
っていうか正直ブリタニーと西田敏行を観る映画かも。
●ブリタニー・マーフィ出演作
『17歳のカルテ』
『8 Mile』
『アップタウン・ガールズ』
『シン・シティ』
『ハッピーフィート』
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