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2010/10/03

おくりびと

監督:滝田洋二郎
出演:本木雅弘/広末涼子/余貴美子/吉行和子/杉本哲太/橘ゆかり/飯塚百花/峰岸徹/山田辰夫/宮田早苗/石田太郎/星野光代/白井小百合/小柳友貴美/大谷亮介/笹野高史/山崎努

30点満点中18点=監4/話4/出5/芸2/技3

【安らかな旅立ちのために】
 自分の腕に限界を感じていたチェロ奏者・小林大悟は、楽団解散を機に妻の美香と故郷山形へ帰り、母の遺した家で暮らし始める。経験不問・高給の募集広告に誘われて大悟が就職したNKエージェントは“納棺師”の会社。葬儀の場で丁寧に遺体を着替えさせ、化粧を施して棺に納めるのが仕事だ。戸惑いながらも社長の佐々木と働き続ける大悟。だが死者に触れる職は周囲から偏見の目で見られ、仕事の内容が美香の知るところとなって……。
(2008年 日本)

★ややネタバレを含みます★

【細かな点は気にかかるが、しっかり作られた映画】
 すでに大悟が社長から仕事を任せられるようになっている時点から始め、けれどそこに「!」も付け加えて、上手に観る者を引き込む。
 いきなり初仕事からイレギュラーな遺体に出くわすなどこの仕事の“いろいろ性”も確実に盛り込んであるし、主要キャラクターもスムーズに登場させている。銭湯のおばちゃんが果たす役割、大悟が仕事に慣れたことを示すフライドチキンのくだり、父親の死と向かい合うラストなど、ややベタだがツボを押さえた展開。説明をただの説明に終わらせないため「DVD収録」というアイディアで処理するという工夫も見せる。

 解散するオーケストラ、閉じた店や劇場、タコやニワトリやサケなど“死や終わり”を想起させるものが散らされ、かと思えば干し柿=死んでいるように見えてまだ生きているものも登場したり、生き物が死んで人の肉となる「食」という行為について言及されたりもする。
 もちろん遺族との交流もあって、死は誰にでもやって来るが、その数だけそれぞれ異なる事情や哀しみが存在し、「どこにでもある当たり前の死」などないことが告げられる。
 納棺の儀はおくる側のためにおこなわれる、そう感じさせると同時に、居眠りする社長に大悟が服をかけてやる場面からは「すべての行為の源には他者への“いたわり”がある」ということもうかがえる。
 さらに親子関係や「死は次への門」といった要素も加えて、死と生とを線でつなげてみせる。

 そうした濃密な内容を、ただ重苦しくするだけでなく幾分の軽さも交え、明るさと静けさのバランスを保ちながら描いている。しかも、そうクドくなく、退屈させず、流れよくストーリーが進んで、ちゃんと考えられていることが実感できる構成。観やすい作りだ。

 プロの役者は他のどんなプロにでもなれる、ということをしっかりと示してくれる主演・本木雅弘が秀逸(『クライマーズ・ハイ』では「これで堤真一は賞を獲れないのか」と不思議に思ったが、競った相手がモっくんだと知ってようやく納得)。
 広末涼子も、他の何者でもない“妻”という役割をまっとう。余貴美子が見せる“温度”のある芝居も山崎努の存在感も素晴らしく、演技を観る楽しみもある作品だといえる。

 全体に、しっかり作られていて、評価が高いことにうなずける作品だ。
 ただし、すべてを無条件に褒められるわけではない

 ベタっとしたビデオライクな画質、対象との距離バリエーションが乏しい撮りかたなど、作りには“格”があるとはいいがたい。チェロという重心の低い楽器をフィーチャーしていながら音楽はどこか薄っぺらいし、片田舎が舞台とあって美術(葬儀の現場)のバリエーションも乏しい。ナレーションベース(安易に心情を語るのは好きな手法ではない)、すなわち大悟の内省的な物語であるにも関わらず、美香や平田老人にちょっと寄りすぎのようにも感じる。

 ラストの父をおくる場面にも、もうひと工夫欲しかった。たとえば、ここでは大悟を泣かせずに彼のプロフェッショナルとしての自覚を表現し、その後、銭湯(営業を続けていて当然だろう)では「ひとりで泣くのかな」と思わせてまだ涙を見せず、家に帰って美香のお腹に手を当てながら泣く、という流れであれば、より感動できたのではないかと思う。
 なにより残念なのは、社長の仕事ぶりを大悟が初めて目にする場面を、極めてフツーに撮ってしまっていること。ここは絶対に、誰が見ても尊い仕事だと実感できるように、ナレーションに頼らなくとも「美しい瞬間」だと実感できるように、つまりは映画的に仕上げなくてはダメだろう。

 細かなところは気にかかるが、それもしっかり作られているからこそ。オスカー・ウィナーであることが恥ずかしくない映画ではある。
 が、受賞は多分に、仏教もキリスト教もいっしょくたにする節操のない日本人像や、そういうわれわれ自身にも特異に思える文化・風習を紹介する機能的な映画、その中で感じさせる普遍的な死生観、といった側面が大きかったはずで、決して「1本の映画として文句のつけようのない作品」とはいえないことを認識すべきだろう。

 同年の“真の”オスカー・ウィナー=『スラムドッグ$ミリオネア』もまた「異文化に触れる映画」だったが、そこには映画的なパワー・パーツがギッシリと詰め込まれていた。言語の壁以上に、その“作りの差”を埋めるべく進むことが、この『おくりびと』以降の日本映画には求められるのではないだろうか。

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