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2010/11/22

ミルク

監督:ガス・ヴァン・サント
出演:ショーン・ペン/エミール・ハーシュ/ジョシュ・ブローリン/ディエゴ・ルナ/ジェームズ・フランコ/アリソン・ピル/ヴィクター・ガーバー/デニス・オヘア/ジョセフ・クロス/スティーヴン・スピネラ/ルーカス・グラビール/ブランドン・ボイス/ハワード・ローゼンマン/ケルヴィン・ユー

30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3

【同性愛者、クローゼットの中から政治の舞台へ】
 1970年代。ゲイであることを隠してNYの保険会社で働くハーヴィー・ミルクは、40歳の誕生日にスコットという若者と知り合う。やがてふたりは自由の街サンフランシスコへ。カストロ通りでカメラ店を開いたハーヴィーとスコットのもとには、全米からゲイが集まるようになる。自分たちの権利を守ろうと市政委員や下院議員に立候補するハーヴィーだが、公職から同性愛者を追放しようとする運動は強く、苦戦を続けるのだった。
(2008年 アメリカ)

★ややネタバレを含みます★

【芝居で見せる、ひとときの勝利】
 どこかで書いただろうか、わが高校の体育教官のひとりは「ゲイが市民権を与えろと騒いでいるけれど、ふざけるな」と公然と言い放っていた。
 彼には彼なりの過去や思いもあった(柔道選手だったから、寝技のとき急にキスされたりしたのかなぁ)のだろうが、いまならそういう意見の持ち主こそ、公職から追放される対象になるかも知れない。ま、当時も生徒は相手にしていなかったけれど。

 で、そういう偏見と戦った実在の人物の物語。
 やはり目立つのは演技で、もうショーン・ペンについてはあれこれいうまでもないこと。「名優が中心にいると周囲も引っ張られる」の法則が発動、ジェームズ・フランコ、エミール・ハーシュ、ディエゴ・ルナとも、これまでの出演作とは大きく離れた役柄を、力まず、けれど誠心誠意演じていることがわかる。

 彼らの芝居を、長めのカットでしっかり捉えようという作り。加えてアーカイブや8mmなどを駆使してリアリティを向上させ、あるいは、画面の中の見えない部分も意識させる撮りかたで「あなたの周囲、あなたの見えないところに、いろいろな価値観が生きている」ということを告げる。

 自分たちの価値観を守り、人々に理解してもらおうと奮闘するハーヴィーだけれど、その過程では、正義や真実だけでなく“駆け引き”が大きなパワーを持つ、という事実が描かれていて印象的だ。
 なるほど大切なものを手に入れたり守ろうとしたりするためには、綺麗ごとだけではすまされない、という局面は人生において多々経験すること。ハーヴィーの仕事ぶりやスコットとの関係からは「パーソナルな想いを実現するためのオフィシャルな主義主張」が、いかに人を疲れさせ、挫かせるものかがわかる。
 でも何かを達成しようとするなら、ことの是非を考えたり信念を貫いたりといったことよりも、必要な手を打ちつつ、ただ真っ直ぐに走り続けることが重要ってことなのだろう。

 そして「政治は芝居」といっていたハーヴィーは、芝居=『トスカ』を観た直後、その内容と同じように凶弾に斃れる。『トスカ』の登場人物カヴァラドッシが死を覚悟していたとするなら、この流れはハーヴィーの抱いていた覚悟の暗喩だろうか。

 まだまだ世の中から偏見は消え去っていないが、一応は、ハーヴィーは勝利した。が、なぜ勝ったのかは作中で明示されない。恐らく、勝って当たり前という思いが監督ガス・ヴァン・サント(彼自身もゲイらしい)にはあったからだろう。

 だがこれは、パーソナルな想いの部分での勝利なのか、それともオフィシャルな主義主張についての勝利なのだろうか。
 同性愛者に対する偏見は多分に「宗教」というごく狭い世界での価値観に起因するものだが、一方的な価値観で弾圧されるマイノリティが存在することは、それこそ神の教えとして許されないと多くの人たちが感じているはずだ。が、結局のところ神の摂理がどうのこうのより、自分自身の平穏な生活を乱すか乱さないか、あるいは自分にとって得になるかどうかという打算めいたものが、イエスかノーかの分かれ目となる。そこに訴えかけての勝利に過ぎないことは確かだろう。

 きっと僕らは、同性愛って何なのか、それが世の中や人間にどういう意味を持ち、どういう影響をもたらすのか、理解しているわけではない。テレビでは随分とカミングアウト・タレントを見るようになったけれど、それは同性愛者の姿のごく一部でしかないはず。依然として多くがクローゼットの中に引きこもっていることだろう。

 こちらとあちらの境界線(本当に境界線があるのかどうかも含めて)を正しく理解したときに、初めて人は、次のステップへ移れるのだと思う。

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コメント

初めまして。gei・aldと言います。結構前から見させて頂いているのですが、今回大変興味深い内容でしたのでコメントさせて頂きました。今後もちょくちょく見に来ます。

投稿: gei | 2010/12/07 15:49

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