007/慰めの報酬
監督:マーク・フォースター
出演:ダニエル・クレイグ/オルガ・キュリレンコ/マチュー・アマルリック/ジャンカルロ・ジャンニーニ/ジェマ・アータートン/ジェフリー・ライト/デヴィッド・ハーバー/イェスパー・クリステンセン/アナトール・トーブマン/ロリー・キニア/ホアキン・コシオ/フェルナンド・ギーエン・クエルボ/ジュディ・デンチ
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸3/技4
【それは復讐か、それとも任務か】
英諜報部MI6のジェームズ・ボンドは、愛するヴェスパーを失い、苦労の末に確保したテロ組織の幹部ミスター・ホワイトも逃がしてしまう。新たな手がかりを追って辿り着いたのは、環境活動家ドミニク・グリーン。彼はボリビアのクーデターを裏で操り、巨大な利権を得ようと画策していた。その計画には米英の政権も絡んでいることが明らかとなる中、ボンドはグリーンに近づくため、謎の女性カミーユとともに事態の核心へと迫っていく。
(2008年 イギリス/アメリカ)
【アクションに突き抜けた続編】
前作『007/カジノ・ロワイヤル』の感想は以下の通り。
「ボンドの暴力性をクローズ・アップしながら飽きさせない流れで話を展開させ、アクションも贅沢。テンポの良さとギッシリ感はなかなかで、エンターテインメントとして仕上がってもいる。
ただし出来事を追うのに手一杯で、ボンドの内面を掘り下げられず、彼の価値観・行動規範やMとの信頼関係などキャラクターとしての深みに踏み込んでいかなかったことが惜しまれる」
で、監督がマーク・フォースターに替わる本作に、そのあたりの向上を期待していた。なにしろ内面ばかり描いてきた人だから。
ところが、むしろアクションが突出した映画になっていたのが驚きだ。
オープニングのカーチェイスが圧巻。短いカットの連続でスピーディ、けれど事態の細かな流れはちゃんとわかって、一気にスリルを盛り上げる。
以後も、裏切り者との肉弾戦、ボートvsボート、『トスカ』の裏で繰り広げられる銃撃、飛行機によるドッグファイトに大爆破と、バリエーション豊かにアクション・シーンを畳み掛けてくる。その切れ味は実に良質。編集には『ボーン・スプレマシー』や『ユナイテッド93』のリチャード・ピアソンもクレジットされていて、この人の力が大きいのかも知れない。テンポの良さとギッシリ感は前作以上だろう。
また、携帯電話やテーブルPCといった最先端ガジェットも楽しく、クルマ、衣装、ロケーションに音楽、すべてがスタイリッシュだ。
ダニエル・クレイグはますます非情で暴力的な新時代ボンドが板についてきた感じだし(ターゲットの息の根を止める際の、泳いでいるようで冷徹な目線が印象的)、マチュー・アマルリックの「それほど手ごわくはない死の商人ぶり」もいい。オルガ・キュリレンコは『ヒットマン』より可愛く、ジェマ・アータートンはいかにも「辺鄙な地で仕事をしているキャリア・ウーマン」っぽく、かつ美しい。
フォースター監督は『君のためなら千回でも』においても「美術・技術・音楽関連の仕事、演技など各パーツがしっかり作品世界を支えている」と感じさせてくれたが、本作もそうした印象の強い仕上がりだ。
反面、期待していた内面や深みについては、今回もアッサリ。もちろんボンドがヴェスパーの死や「関わった者すべてが命を落とす」事実について悩む姿は描かれるものの、彼の基本属性/アイデンティティ/仕事や人生に対する価値観は、いまもって強烈に表出してこないというか、まだ固まっていないような感じ。
また、本作は続編という位置づけ、しかも前作以上に「AからB、BからC」と目まぐるしく状況や舞台が変わるので、観る側としてもついていくのがやっと、とてもボンドの内面まで読み取りのパワーを割けない。
そんなわけで、相変わらず“情”の部分では不満が残るし、ギッシリすぎてゴチャゴチャ感が強くなっているけれど、アクション・エンターテインメントとしてはマズマズ以上のデキ。
できれば前作と連続して観たいところ。そうすればようやく1つの完成形となり、このシリーズにおける「ボンド像」も、ちょっとはハッキリと感じられるかも知れない。
●マーク・フォースター監督作
『チョコレート』
『ネバーランド』
『主人公は僕だった』
『君のためなら千回でも』
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