バーン・アフター・リーディング
監督:イーサン・コーエン/ジョエル・コーエン
出演:ジョージ・クルーニー/フランシス・マクドーマンド/ブラッド・ピット/ジョン・マルコヴィッチ/ティルダ・スウィントン/リチャード・ジェンキンス/エリザベス・マーヴェル/デヴィッド・ラッシェ/J・K・シモンズ/オレク・クルパ/ケヴィン・サスマン/J・R・ホーン/ラウル・アラナス/ブライアン・オニール/マイケル・カントリーマン
30点満点中18点=監3/話3/出4/芸4/技4
【浮気と思惑とトラブルの交差点】
降格を機にCIAを辞職したオズボーン・コックスは、暴露本の執筆を思いつく。彼の極秘ファイルを偶然手に入れたのは、ジム・インストラクターのチャドとリンダ。そのジムの支配人テッドが心配するのをよそに、整形願望を抱くリンダは出逢い系サイトで元財務省の護衛官ハリー・ファラーといい仲になる。ハリーは妻サンディにベタ惚れだったが、コックスの妻ケイティとも不倫の真っ最中……。複雑な人間関係が呼ぶのは、悲劇か、喜劇か。
(2008年 アメリカ/イギリス/フランス)
【バカは放っておくのが一番】
スケール感抜群のオープニングに続いて繰り広げられるのは、グダグダのヨタ話と浮気と痴話喧嘩と無計画なあれやこれや。登場人物もバカのオンパレードで、それはもうバカな話が展開する。
まさか『ノーカントリー』の反動というわけでもあるまいが、出来事や人物やストーリーに重厚さの欠片もない。意味があることや教訓めいたものもない。
いや、映画そのものがバカなデキというわけじゃない。
意外と少ないカット、場面は会話が中心。にもかかわらず、各画面はビシリと決まって緊迫感があふれる。撮影は『トゥモロー・ワールド』や『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』、『ニュー・ワールド』のエマニュエル・ルベツキだ。
音楽は本物のスパイ映画なみに、大仰すぎるほど大仰。ただ浮気相手と会うだけなのに「ずずぅん」と低音が響く。音楽は『ノーカントリー』や『かいじゅうたちのいるところ』のカーター・バーウェル。
そうした上質な仕事の中、バカどもが真面目にバカをやることで、見た目の仕上がりと内容にはギャップが生まれ、落ち着かないというか尻がこそばいというか、なんとも珍妙な間(ま)が漂い、笑いを誘う。
コメディとシリアスの狭間をユラユラ。っていうか、この世にコメディとシリアスの境目なんかないんだよ、という空気。
まぁ確かに、臨界点スレスレの人や事態が偶然にもひとっところへギュっと集まった場合、ちょっとしたことが契機となってコロコロと、誰もが望まぬ方向へ転がっていくものなのかも知れない。
で、コロコロ転がっていく面々は、なんとも濃いぃ連中。
ジョージ・クルーニーは珍しくサイテー男。いや犯罪者とか変質者とか、映画の中ではもっと最低なヤツも描かれる。けれど「実社会、自分の側にもいそうなサイテー男」という意味で、このハリーはスゴイ存在感だ。いつもは清潔なジョージと今回の役どころとの落差がまた、作品のムズムズ加減をUPさせる。
フランシス・マクドーマンドは抜群の顔力(今回は脂肪力もプラス)で、テンパっていてマトモに思慮判断できないおばちゃんを好演。ブラッド・ピットは持ち前の“得体の知れなさ”を武器にして、バカの中のバカをまっとうする。いかにもブチ切れそうなジョン・マルコヴィッチ、なぜかサイテー男にしか縁のない女性としてのたたずまいに説得力のあるティルダ・スウィントン、いずれも適役だろう。
可哀想に、たぶんもっとも善良な人物なのに「バカの代表」呼ばわりされてしまうリチャード・ジェンキンスが、いい。極秘ファイルの内容が表示されているPCを、部屋の外から恐々見ている姿がラブリーだ。
残念ながら、自分がバカだとは気づかず、よって自らが引き寄せたバカ事態を回避しようとはしない、彼ら。
で、たぶんCIAのように「面倒だ。放っておけ」と投げ出すことこそが最善の“複雑なバカ事態回避策”だろう。意味や教訓を探すなら、それが本作における最大最高のメッセージということになりそうだ。
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投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2010/12/24 12:17