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2010/12/28

ピアノ・レッスン

監督:ジェーン・カンピオン
出演:ホリー・ハンター/ハーヴェイ・カイテル/サム・ニール/アンナ・パキン/ケリー・ウォーカー/ジュヌヴィエーヴ・レモン/タンジア・ベイカー/イアン・ミューン/クリフ・カーティス

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【見知らぬ土地、話せない女性はピアノを弾く】
 1852年、娘フロラとともにスコットランドからニュージーランドへと渡るのは、会ったこともないスチュワートのもとへ嫁ぐエイダ。彼女は6歳の頃に言葉を失い、以来、ピアノだけを拠りどころとして生きてきた。もちろんピアノもニュージーランドへ持ち込んだエイダだったが、それはマオリの男ジョージ・ベインズの手に渡る。エイダに密かな想いを寄せるベインズとピアノを取り戻そうとするエイダ。ふたりはある“取り引き”を交わす。
(1993年 オーストラリア/ニュージーランド/フランス)

【“死”の終わり】
 時代は、イギリスからニュージーランドへの入植が活発化し、入植者とマオリとの争いが増えていた頃。いまだニュージーランドは「辺境」であり、そんな場所へ、しかも見知らぬ男のもとへ嫁ぐというのは、女性にとってほとんど死を意味したはずだ。
 その“生きたままの死”を描く作品。

 撮りかたとしては、まず「?」と感じさせておいて「!」を示すという方法論を多用。まさに、見知らぬ土地にまだ馴染めない人を感じさせる。
 クローズアップも多め。セリフで語るより、グっと寄ることで説明し読み取りも促す、というやりかただ。
 わざわざサウンド・デザイナー(『トゥルーマン・ショー』などでサウンド・デザインを、『ダークナイト』『マスター・アンド・コマンダー』ではエディターを務めたリー・スミス)を大きくクレジットしているように、音の作りにもこだわりがある。
 風、波、鳥の鳴き声、足音、きしむ木、雷鳴、そしてピアノ……。常に音が散らされて、そこに、たとえ知らない場所であってもしっかりと自分を取り巻く世界が広がっていることを表す。
 もちろんマイケル・ナイマンのスコアも、作品と不可分のものとして物悲しく、多彩に画面へと乗っかっていく。

 そうして、形のある世界、動きのある世界が描写されるわけだが、エイダはやはり死んでいる。白すぎる肌が、ここにいてはならぬ者というイメージを観る者に植えつける。
 ホリー・ハンターは、セリフがないこともあって思ったより感情表現は抑えめに思える。だがそれは、クライマックス、雨中にたたずんで、まるでそうされる(否定され、傷つけられる)ことが勝利であるかのような表情を浮かべる圧巻のシーンへ向けての布石。一点凝縮ともいえる芝居は見事で、ピアノを自分で弾いているというのも素晴らしい。

 相手を務めたハーヴェイ・カイテルは「苦しい」といいながら笑みを漏らす機微の表しかたが印象的。彼もまた、複雑なパワー・バランスの中で生きているとはいいがたい時間を過ごしている。スチュワート役のサム・ニールにも明るさはなく、僻地での生気ないわが身を呪う。
 そして、唯一生きているのがフロラ。アンナ・パキンのオスカーは褒めすぎだと思うし、『グース』のほうが魅力的だったけれど、自由気ままで幼い生が、周囲の生と死をかき乱すという皮肉なキャラクターをナチュラルに表現する。

 そう、かき乱される生と死。それがテーマであり、ストーリーを動かしていく源だ。
 もともとベインズに対するエイダの態度は、自暴自棄というか、現状を否定するためだけの関係だったはず。ところがそれは、共犯者という、この世でもっとも強い結びつきを生むことになる。
 やがてふたりは、そういうカタチの愛もあることを、その愛が生を与えてくれることを知り、死んでいるエイダによる真っ当な愛=生を求めるスチュワートは苦しむ。

 そもそもニュージーランドに来る前、6歳の頃に、あるいは最初の結婚に失敗した折に“死”んでいたエイダが、“生”をつかめるとなれば、もうやることは決まっている。
 死(んだように生きてきた時間)の象徴であるピアノを捨て、と同時に自らにも終わりをもたらし、そうやって「死を葬る」ことが、彼女の新しい生のためには必要だったということなのだろう。
 森の中に渦巻き海の底に眠る生と死を、静かに、けれど苛烈に描いた映画といえそうだ。

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