幻影師アイゼンハイム
監督:ニール・バーガー
出演:エドワード・ノートン/ポール・ジアマッティ/ジェシカ・ビール/ルーファス・シーウェル/エディ・マーサン/ジェイク・ウッド/トム・フィッシャー/アーロン・ジョンソン/エレノア・トムリンソン/カール・ジョンソン/イライアス・バウアー
30点満点中16点=監3/話2/出4/芸4/技3
【幻影師が手にしたかったもの、それは初恋】
19世紀末のウイーン。家具職人の息子は旅回りの奇術師と出会い、イリュージョンの世界に目覚めた。彼のマジックに公爵令嬢ソフィはときめき、やがてふたりは心を通わせるようになるのだが、身分違いの恋は引き裂かれてしまう。十数年の後、幻影師アイゼンハイムとして人気を博すようになった彼と、冷酷な皇太子レオポルドの婚約者となったソフィは舞台上で再会、たがいの心を確認しあうのだが、障壁がなくなったわけではなかった。
(2006年 チェコ/アメリカ)
【雰囲気に頼りすぎたかも】
実に雰囲気タップリの見た目。画面はセピアに整えられ、四隅は暗く闇に沈む。プラハやチェスキー・クルムロフなどチェコ各地で撮影された街並の様子も美しい。
撮影は『誘拐犯』や『ヴェラ・ドレイク』のディック・ポープ、プロダクション・デザインはチェコ出身のオンドレイ・ネクヴァシール、衣装デザインは『LOTR』のナイラ・ディクソンで、それぞれにいい仕事。
フィリップ・グラス(『シークレットウインドウ』、『テイキング・ライブス』、『あるスキャンダルの覚え書き』、『幸せのレシピ』)の音楽にも風格がある。
その幻想感の中で動くのは、適役ばかりのキャストたち。
エドワード・ノートンは、陰とウラと熱さがあって、ただでは引き下がらない男がピッタリ。ポール・ジアマッティは、いつの間にかこういう「ちょっとコワモテだが憎めない」という役が板につくようになった。ジェシカ・ビールはあまり可愛く見えないんだけれど、やはり「悲恋の令嬢」がサマになっている。ルーファス・シーウェルなんか、もう冷酷で野心あふれる皇太子そのもの。エディ・マーサンのイライラっぷりもナチュラルだ。
若いアイゼンハイムを演じたアーロン・ジョンソン、若きソフィ役のエレノア・トムリンソン、この両名の可愛らしさにも将来性を感じる。
と、いいパーツもたくさんそろっているのだが、トータルとしては不満の残るデキだ。
ここがポイントっ、という部分で、これといって印象に残るような撮りかたをしていない。どうも雰囲気だけに頼っているようなイメージ。
オーストリア皇太子ルドルフが起こした「マイヤーリング事件」から着想を得たお話らしいが、ストーリーも消化不良。いかにしてアイゼンハイムはソフィとの恋を貫こうとしたか、その根幹に関わる部分において、伏線らしい伏線が用意されていない。かなり強引なクライマックスで、少なくとも刑事さん、あんたはそれで納得しちゃあいかんでしょ、と思わせる締め。
許されない恋に苦しむアイゼンハイムとソフィ、という切なさも出せていない。もうちょっと皇太子の非情さを見せておくだけで、このふたりへの感情移入度も高まったはずなのに。
つまんないわけではないのだけれど、この映画に不可欠だったはずの「恋を成就させてやりたい」というシンパシー、「そうかっ!」という驚嘆、そして「ああよかった」というカタルシスが足りない、そんな仕上がりだ。
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