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2011/01/12

フロスト×ニクソン

監督:ロン・ハワード
出演:フランク・ランジェラ/マイケル・シーン/サム・ロックウェル/ケヴィン・ベーコン/マシュー・マクファディン/オリヴァー・プラット/レベッカ・ホール/トビー・ジョーンズ/アンディ・ミルダー/ケイト・ジェニングス・グラント/ガブリエル・ジャレット/ジム・メスキメン/パティ・マコーマック/ジェフリー・ブレイク/クリント・ハワード

30点満点中17点=監3/話3/出4/芸3/技4

【史上最大のインタビューに臨む、ふたりの男】
 ウォーターゲート事件を機に失脚し、史上初めて辞任に追い込まれた合衆国大統領、リチャード・ニクソン。事件後も沈黙を守り続ける彼に、英国のテレビ司会者デヴィッド・フロストはインタビューをオファーする。フロストを「ただのトークショー司会者」と侮るニクソン陣営も、これが政界復帰への足がかりになると考えて受諾、かくして番組の収録は始まった。序盤はニクソンの思惑通り、彼の主張ばかりが目立つことになるのだが……。
(2008年 アメリカ/イギリス/フランス)

【人vs人の対決に敗れたニクソン】
 もともとは舞台劇で、オリジナルでもニクソンを演じたのはフランク・ランジェラ、フロスト役はマイケル・シーン。だから「お芝居を見る」というイメージの強い作品となっている。

 フランク・ランジェラは、いかにも政治の世界を歩いてきた狸面。気持ちのうつろいによって歩きかたまで変えて、ニクソンを知らなくとも「ずいぶん研究し、自分なりの表現にもトライしたんだろうな」と感じさせる。
 マイケル・シーンも、自身の持つ「生真面目さとユーモアの融合」とでもいうべき雰囲気をそのまま出して、失敗できない状況での“オドオド”を懸命に隠すインタビュアーを好演(パフォーム)する。
 周囲に置かれるのも、サム・ロックウェル、ケヴィン・ベーコン、マシュー・マクファディン、オリヴァー・プラットなど、クセモノでありながらそこにいるべき人々、という感じ。
 上質な配役で固め、まずは“お芝居映画”として恥ずかしくない仕上がりを見せている。

 もちろん、そこはロン・ハワード、ちゃんと「映画」にすべく数々の配慮も示している。
 序盤で状況説明を一気に済ませ、時間をグイグイ飛ばして本題=インタビューへ雪崩れ込んでいく手際が上々。70年代っぽさを、衣装や美術だけでなく、明と暗、ギラリとまぶしい光と粒子の粗い陰といった画面の質感でも創出してみせる。
 その場に入り込むカメラワークや関係者の回想を盛り込み、フェイク・ドキュメンタリーとして作ったのも映画ならではの手法だろう。本作のキーである「人間ニクソンの顔」をラストで印象づけたのも映像の力だ。

 そう「人間ニクソン」が、1つのテーマ。
 最初、このフロスト×ニクソンの対決はインタビュアーvs元大統領という図式だった。歴戦の古狸相手では、確かにトークショーの司会者が勝てる道理はない。
 が、そこでニクソンは「もっと大勝したい、大勝できる」という想いを封印することができなかった。その想いは「大勝するためには相手を本気にさせたうえでコテンパンに叩きのめすべき」という思い上がりへとつながり、本人が覚えていない行動を取らせることになる。
 この時点で、構図はインタビュアーvs元大統領ではなく人vs人になってしまった。フロストもニクソンも等しく「功を焦る普通の人(本作ではそう描かれているように感じる)」となり、ならば、フロストにも勝ち目は出てくる。

 だから、この対決、フロストやTVというメディアが勝ったのではなく、ニクソンが自身の渇望、すなわち自分の中の人間的部分に負けた、といえるのではないだろうか。
 その事実は、政治のトップに立つためには、そうした人間的部分をすべて抹殺しなければならない、ということも意味している。

 ニクソンは、人間的部分を心中にある箱へと封じ込め、そして「大統領は何をやっても許される。それが国益のためであるなら」と本気で信じていたのだろう。一瞬だけ開きかけた箱に、かろうじてカギを締めなおし、結局のところ、彼は謝罪しない。そうした心情がよくわかるインタビューであり、映画だったと思う。

 で、そんなニクソンと、信念なくただシラを切り、いざとなったら謝ればいいと考えているどこかの国の政治屋と、どちらが高潔だろうかなんて比較してみたり。少なくとも、コメディアン出身の司会者をいいようにあしらう国家元首なんて、この国には誕生しそうもない。

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