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2011/02/07

キングダム・オブ・ヘブン

監督:リドリー・スコット
出演:オーランド・ブルーム/エヴァ・グリーン/ジェレミー・アイアンズ/エドワード・ノートン/マートン・ソーカス/ブレンダン・グリーソン/デヴィッド・シューリス/ハッサン・マスード/アレクサンダー・シディグ/ヴェリボール・トピッチ/マイケル・シーン/ジョン・フィンチ/イアン・グレン/ブロンソン・ウェッブ/リーアム・ニーソン

30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4

【エルサレムの民を守るために】
 自分がイベリン卿ゴッドフリーの息子だと知った鍛冶職人のバリアンは、自身と妻の罪を償うため、父とともにエルサレムへ向かう。サラディン率いるイスラム教徒に取り囲まれながらも、平和的な対立を維持し、名君ボードゥアン王によって治められているエルサレム。だが王の義弟ギーやその戦友ルノーら強硬派の思惑も渦巻き、やがてこの地は大きな戦火に覆われる。父の遺志を受け継ぎ、義を尊ぶ騎士として育ったバリアンが立ち上がる。
(2005年 イギリス/スペイン/アメリカ/ドイツ)

【天の王国など存在しない】
 ユダヤ教・キリスト教・イスラム教共通の“聖地”であるエルサレム。数多くの民族・宗派によって支配され、11世紀末には第一次十字軍がユダヤ教とイスラム教からこの地を奪い取り、王国を建国する。
 その後、王国内の強硬派と穏健派の対立、周辺諸国・王朝の興隆と没落など不安定な情勢の中、エルサレムのボードゥアン王、イスラムのサラディンというふたりの講和によって“なんとか”平和を保っていた、という時期が本作の舞台。

 実際にはもっと多くの戦争や後継者争いのドロドロがあったらしく、またバリアンをめぐるエピソードの大半は架空・脚色、時代考証的にも厳密なところもあればおかしなところもあるそうな。
 が、そのあたりについては門外漢。だいたい、みんな英語を喋っている時点でフィクションであるわけで、なので「1本の映画としてどうか?」という評価で考えるほかない。

 結論は「まずまず」、いい面も悪い面もかなりハッキリ出ている作品といったところだろうか。

 演出・作り的には、逆光やアンダーなど陰影豊かな絵を用意し、湿度やギラリとした温度を伝える撮影が、まずはマル。合戦や海上シーンのスケール感もいい。サントラやSEには劇場映画にふさわしい重厚さがあり、衣装も多彩かつ豪華だ。
 いっぽうで、スローに頼った戦闘シーン、各都市の位置関係・距離関係がわかりにくいことなどがバツ。

 ストーリーはダイジェスト的で、「えっ、ここでこの人死んじゃうの?」などと戸惑うことの多い怒涛の展開。それだけに退屈せずにすむが、バリアンが自らの中に“義を尊ぶ心”を培っていく様子が不足している。すでに夫のいる次期女王候補と交わることはキリスト教的にあってはならないことのはずだし、そういう立場になりながらなお義を重視したりなど、アイデンティティが不安定で感情移入を妨げる。
 ただ、セリフを少なめ、事件も少なめにして、大きな流れを「見せる」ことに徹した点は好印象。高潔と野心、対称的な人物たちを配置してわかりやすく出来事を推移させた点もいい。

 その人物たちだが、結構ハマっている。
 オーリーには『LOTR』当時のようなひ弱さがなく、なかなかの騎士ぶりを披露。エヴァ・グリーンは妖艶な美しさをたたえ、エドワード・ノートンなんか表情なしで「王の哀しみ」を表現してしまっている。
 ジェレミー・アイアンズ、ヴェリボール・トピッチ、そしてリーアム・ニーソンといった「バリアンを支える者」たちや敵将を演じたアレクサンダー・シディグなどは“漢”を感じさせ、こうした頼れるサブキャラクターの多さも個人的には好み。
 それに、マイケル・シーンの気味悪い笑いと、牢獄の中で踊っているブレンダン・グリーソンの様子もツボだ。
 全体として目線を大切にした演技で統一されていて、そういう「芯の通りかた」も素晴らしい。

 彼らが血を流し、命を賭して奪い合った「キングダム・オブ・ヘブン」だが、結局のところ、そんな夢の王国など存在しないのだろうか。
 ラスト、命とともに争いもつながっていくことを示唆する描写と、死の向こうに愛があると思わせる描写が、あわせて取り入れられていることが興味深い。つまり明確な答えなどなく、シロとクロとを分けられぬまま、人は争いと平和とを繰り返していくのだろう。たとえ王が慈悲を示したとしても、それは新たな野心に食われてしまうものなのだ。

 つまり、永劫に続く破壊の因となるのは、やはり宗教。当ブログで何度か言及している「歴史上もっとも多くの人を死に追いやったのはキリスト教である」という事実に、ユダヤ教やイスラム教も加えなければならないな、と認識させてくれる映画である。
 しかし宗教以前に、血気盛んな者の「戦わせろやっ!」という逸る心が戦火を拡大させていき、それは現代も変わりなく続いていることを感じさせる映画でもある。

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