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2011/02/10

ザ・タウン

監督:ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック/レベッカ・ホール/ジョン・ハム/ジェレミー・レナー/ブレイク・ライヴリー/スレイン/オーウェン・バーク/タイタス・ウェリヴァー/デニス・マクローリン/ブライアン・スキャンネル/ピート・ポスルスウェイト/クリス・クーパー

30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4

【強盗たちの生きる町】
 ボストンの一角、チャールズタウン。銀行や現金輸送車を狙った強盗事件が世界一多く、その“仕事”が父から子へ受け継がれるという町。リーダー格のダグ、その親友ジェム、自動車泥棒のエキスパート・グローンシー、防犯機器に通じたディノの4人組は、元締めである花屋のファーギーから回された“仕事”をいくつも成功させてきた。だが犯行の証人になる可能性のあるクレアにダグが近づいたことで、状況が変わり始めるのだった。
(2010年 アメリカ)

【真面目で誠実】
 恐らくベン・アフレックは、とても真面目なヤツなんだろう。その性格が反映されて、本作はひじょうに誠実な映画となっている。いいかたを変えれば、安っぽい都合や妥協や思い付きからではなく、じっくりと考え、準備をしたうえで作ったという印象の強い仕上がりだ。

 たとえば徹底して貫かれる強盗たちのプロフェッショナリズム。円滑に仕事を遂行しようとすれば、何が必要で、何に気をつけなければならないか。そのあたりのセオリーや手順をふんだんに盛り込みつつも下手に説明せず、あくまで「プロとして当然のこと」として描写していく。いざ銃撃戦やカーチェイスになれば、その迫力とスピード感の凄まじいこと。
 奇しくも作中に「この町では6歳の子どもだってFBIのクルマを見分けられる」というセリフがあるが、そうした“日常に潜むホンモノの情報”、すなわちリアリティを、重視し、綿密にリサーチし、不可欠なファクターと捉えて作っているのだと感じる。

 また、ダグ、クレア、ジェムの3人が揃ったカフェの場面やカースタントに代表されるように、そのカットで何をどの程度うつすか、あるいはうつさないか、どうつなげるかを真面目に考え、選択して作っていくスリルも本作の特長だ。
 その町、その場での出来事をリアルに表現すべく、スタッフも誠実にチョイスされたのだろう。撮影や編集などそれぞれのパートがアフレックの考える「この作品に必要なこと」をカタチにして、“そこへ潜り込んでいく”という本作の作りを実現しているようなイメージだ。

 本作はとりわけ演技アンサンブルで高い評価を得ているようだが、確かに出演陣も真面目に役柄をまっとうしている。
 ちょっとやさぐれながらもインテリジェンスと優しさを感じさせるダグのベン・アフレック、『ハート・ロッカー』とは似て非なるハードボイルドに挑んだジェムのジェレミー・レナー、このコンビが上質。アフレック自身も気に入っているという「理由は聞くな。ブチのめしたい連中がいる」のシーンや取っ組み合い、クライマックスなどに漂う屈折した友情に痺れる。
 そこへ、レベッカ・ホール、ブレイク・ライヴリー、ジョン・ハム、タイタス・ウェリヴァーらは、ちょっと抑えた芝居で加わることでバランスを取る(不覚にも本稿を書いている途中でピート・ポスルスウェイトが今年1月に亡くなっていることを知った。出演作にはお気に入りが多いのに残念だ。合掌)。
 また、グローンシー役のスレインはボストン出身、ディノ役のオーウェン・バークはチャールズタウンでの公募から選ばれた新人、用心棒ラスティ役デニス・マクローリンは現地でスカウトされたそうで、このあたりにもホンモノ追求の生真面目さが表れている。

 ストーリーや構成もまた真面目。男と女、友や仲間、父と子、率いる側と従う側、敵と味方など、人と人との愛憎関係・対決図式を網目のように配置し、さまざまな伏線を丁寧に回収していく。ガッチリとした作りだ。
 その中で、いつかは足を洗って町を出たいと想いながら抜け出せないでいるダグの生きざまを描くことが主眼。出来事・事件を描いているように見えて、その渦中にいる人物を描いた作品、または、出来事をリアルに描くことで、その中の人物のリアルに光を当てる映画、ともいえるだろう。
 そしてダグにあるのは、未来への憧憬ではなく、むしろ過去や現在に対する拒絶と拒否である。

 ホッケーでの挫折も、ジェムやクリスタとの関係も、いまの仕事も、すべては否定したくともできず、ただ気まずさだけを彼に強いるもの。が、何でもかんでも無かったことにしたいとまでは思えない。だって、それらはすべて彼の一部でもあるから。
 そんな自分自身を、苦しめることなく否定する方法はあるだろうか。クレアとの関係という非現実的な細い糸に、一切合財をゼロにする空しい希望を感じて、彼は足掻く。
 消えてしまった母親には何か汚れた事情があったことも、たぶんダグだって気づいていたはず。それを心の中で、まさに自らを苦しめないように否定し、何とか折り合いをつけていた。だからこそ「信じたいこと」を他人に否定され、それによって自分自身の過去や現在まで否定されることには怒りを覚えるのだ。

 どうにかできたかも知れない過去、どうにもならなかったかも知れない過去、それらが作った現在に振り回されるダグ。
 思えばアフレックは『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『ゴーン・ベイビー・ゴーン』もそうだったが、「自分も含めて、人生はどちらに転がっても不思議ではない」ということを自覚していて、その土台の上で内省的に映画を作っているのではないだろうか
 もちろん、だからといって犯罪が肯定されるわけではない。ただ「どうにでもなり、と同時に、どうにもならない」生き物としての人間への哀れみや優しさをフィルムにしたいのだろう。

 やや理知的な感覚が勝っているぶんエモーショナルな部分では弱さがあるものの、「よくできた映画」といえる作品だと思う。

●主なスタッフ
 撮影は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ソルト』のロバート・エルスウィット+セカンド・ユニットのスペシャリストであるアレクサンダー・ウィット(『バイオハザードII アポカリプス』)、編集は『ブロークバック・マウンテン』などのディラン・ティチェナー。
 プロダクションデザインは監督の前作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』のシャロン・シーモア、衣装デザインは『キングダム/見えざる敵』のスーザン・マシスン、音楽は『ドラゴン・キングダム』のデヴィッド・バックリーと『アンストッパブル』などのハリー・グレッグソン=ウィリアムズ、スタントは『イエスマン“YES”は人生のパスワード』のゲイリー・ハイムズ、SFXは『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』でオスカー受賞のアレン・ホール。

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