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2011/02/19

ザ・バンク 堕ちた巨像

監督:トム・ティクヴァ
出演:クライヴ・オーウェン/ナオミ・ワッツ/アーミン・ミューラー=スタール/ウルリク・トムセン/ブライアン・F・オバーン/ルカ・バルバレスキ/アレッサンドロ・ファブリージ/ジャック・マクギー/フェリックス・ソリス/ニラジャ・サン/ミシェル・ヴォレッティ/ジェームズ・レブホーン/パトリック・バラディ/ジェイ・ヴィラーズ/ファブリス・スコット/ハルク・ビルギナー/ティボール・フェルドマン/タイ・ジョーンズ/イアン・バーフィールド/ルイジ・ディフィオーレ/ベンジャミン・ヴァンシュナイデル

30点満点中20点=監5/話4/出3/芸4/技4

【大銀行の巨悪を暴くために】
 国際的大銀行IBBCによる資金洗浄を調査するインターポールのサリンジャー捜査官と米検事局のエラ。ルクセンブルグからミラノ、そしてニューヨークと証拠や証人を追い、武器取引の裏に隠された銀行の狙いへと辿り着くが、仲間や情報提供者、銀行の取引相手などが次々と殺されていき、ふたりの捜査にも上部からの圧力がかかり始める。勝つのはサリンジャーとエラか、それともスカルセン頭取、ウェクスラー大佐らIBBC側なのか?
(2009年 アメリカ/ドイツ/イギリス)

【映画としての面白さ】
 トム・ティクヴァは『ラン・ローラ・ラン』といい『パフューム ある人殺しの物語』といい、奇抜なテーマ/構成を好んで取り上げており、どちらかといえば“作家性”が前に出ている監督、という印象を抱いていた。
 だがいっぽうで、変幻自在のカメラワークや美術、音楽、特殊効果など各パートの仕事を高い次元で融合させることで、映画としての密度やストーリーのテンションを高める腕を持っていることも確か。
 本作は、そうした“職人的な腕”や“コーディネート能力”が存分に発揮された映画だといえる。

 序盤、サリンジャーとエラがルクセンブルグ当局と机を挟んで会話するという場面。たいして重要なシーンではないし動きもほとんどないのだが、ゆっくりと動くカメラと細かなカット割りでピリっとした空気を生み出す。
 あるいはサリンジャーがヒットマンを追跡するミラノ。カットバックによる緊迫感とスピード感、数十台のクルマの前に「ビタっ」と立ちはだかるサリンジャーの姿に心が沸き立つ。囮スナイパーと真のヒットマンとの役割を解き明かす場面での、セリフ抜きでの展開、「おいおい」という現地刑事の表情の挟みかた、合成の使いかたなども実に上手い。
 大佐の尋問シーンでは、エラの行動から「検事局やNYPDは、たびたびここで重要参考人の取調べを極秘裏におこなっていたんだな」ということが読み取れる。

 とにかく、寄り引き自在の絵、スリリングなカットワーク、説明ではなく描写することの徹底(かと思えば、IBBCの思惑や出来事の推移をわかりやすくセリフで説明する配慮も随所に見られる)、観客に“読む”楽しみを与えるための不要な部分の省略など、映画としての面白さがギッシリと詰め込まれている。

 ティクヴァっぽいジョコジョコ系のサントラも、スムーズなフェードインや突如の静寂などで上手に場面を盛り上げる。TV会議では画面にうつる4人の背景をそれぞれ変える細かさがあった。
 美術館での銃撃シーンは、よくグッゲンハイムが許可したなと思ったのだが、なんとセットを組んだとのこと。そういう「ここに手間ひまをかければ面白くなる」という判断と、それを実行してしまうバイタリティがスゴイ。

 ストーリーとしては「あっちがダメならこっち」と頭の悪い取引をしてしまうIBBC、ヒットマンがわざわざ敵(捜査側)の本拠地であるNYでウロウロする愚挙、いきなり大量の殺し屋が投入されてしまうなど、やや強引でご都合主義的ではある。
 原題『THE INTERNATIONAL』を具現化するかのごとく、ルクセンブルグ、リヨン、ミラノ、NYにトルコに囲碁と国際色は豊かだけれど、なんだかムダに散らかしちゃったという印象も。
 また「人々が知りたいのは真実とは限らない」という印象的なセリフがありながら、その言葉に説得力を与えるような事件ともいえない。
 つまり弱さもあるのだが、描写と説明とのメリハリ、先読みを許さない展開、国際平和からパーソナルな復讐へと収束していく皮肉などは、なかなかに面白い。

 クライヴ・オーウェンは、いつも通り。ナオミ・ワッツは、キレのある検事を演じるにはやや美しすぎるか。が、ポリシーを抱えながら現実的な諦観の中で揺れる大佐役のアーミン・ミューラー=スタール、いかにも取り替えのきく悪玉を演じた頭取役ウルリク・トムセン、確かに雑踏の中に消えてしまいそうな“コンサルタント”のブライアン・F・オバーン、ミラノやNYの刑事たちの「正義のために仕事をします」的な様子など、周辺キャラクターの“ぽさ”は上質だ。

 トータルとして、映画的なパワーで引っ張っていくだけの密度感を十分に楽しめる作品。実はティクヴァ監督作だと知らずに観たのだが、だからこそこの人のセンスや能力をあらためて感じ取れた映画である。

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