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2011/03/09

U.N.エージェント

監督:ジャコモ・バティアート
出演:ブノワ・マジメル/イポリット・ジラルド/カロリーナ・グルスツカ/フリスト・ショポフ/ネヴェナ・ロスリャス/ディミトリ・イリッチ/クリストフ・オデン/エミナ・ムフティッチ/アネッカ・ノバク/ヴィテスツラフ・ハエック/ボリスラフ・ルディッチ

30点満点中17点=監3/話4/出4/芸4/技2

【大虐殺の真相を暴くために】
 ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が激化する1990年代。ムラディッチが率いるスルプスカ共和国軍の優勢は続き、国連保護下にある安全地帯スレブレニツァも制圧されることとなる。住民のボシュニャク人(ムスリム)たちは追い出されてしまうが、その際、多くの男たちが行方不明となった。後に停戦が実現するものの、国際戦犯法廷から現地に派遣されたフランス人警官ジャック・カルベスは、大量虐殺があった証拠を追い続けるのだった。
(2008年 フランス/ポーランド/イタリア)

【現代的戦争映画の、ひとつの形】
 まさか戦争映画でピクシーの名前を(しかも“悪者”たちの英雄として)聞くとは思わなかったので、結構ビックリした。

 そう、紛れもなく本作は戦争映画

 描かれるのは、セルビア人勢力(スルプスカ共和国軍)が8000人以上ものボスニア・ムスリム(ボシュニャク人)を殺害、第二次世界大戦以降のヨーロッパで最大の大量虐殺とされる「スレブレニツァの虐殺」について、その事実調査にあたった捜査官の働きぶり。

 虐殺の実行者、その協力者、被害者、遺族などが登場し、虐殺の様子も映像化されるのだが、むしろ中心に据えられているのは、主人公である警察官ジャックのほか、検死担当者、通訳、情報収集のエキスパートなど「いろいろな立場の第三者」が「いろいろな仕事・作業」をおこない、虐殺の爪あとに立ち会っていく、という展開・描写だ。

 銃で撃ちあったり戦車を走らせたり空爆したり……といった殺し合い、あるいは一方的な殺戮だけが戦争なのではない。そこで人々が味わう苦しみ、侵される自由、停戦・終戦後に待つ「何があったのかを解き明かしていくための行為」まで含めて、すべてが“戦争”を形成するもの。そうした作り手の思いが伝わってくるような構成となっている。

 その「何があったのかを解き明かしていくための行為」を、本作は“真実と正義のための戦い”だという。国連軍やNATOは一貫して及び腰、役立たずの存在として扱われるが、そんな国際情勢の中でも、真実と正義のための戦いに本気で取り組む人がいた(ジャックたち登場人物だけでなく、彼らを調査に送り込もうと決めた人も含めて)、というわけである。そこにはまさに正義の存在を感じる。
 ただし、その戦いに参加しているのは、過去のジェノサイドを生き延びた人であったり、同様の虐殺現場を渡り歩いている者であったりする。誰もが誠実で善良なら、正義という概念など不要であるはず。しかし、何度も何度も「正義が求められる出来事」が繰り返されているのだ。

 作りとしては前述の通り、主人公ジャックが「どういう経緯で、何を見ていくか」をメインとして展開。説明と描写のバランスが上々で、難しいことや事実関係の説明は潔く文字に頼り、回想や一気の跳躍で時間軸を操りながら、ジャックたちの仕事ぶり、彼らや虐殺の生存者の体験を観る者に印象づけていく。
 サイズのバリエーションの乏しさ、迫力不足など確かにTVムービー的な仕上がりだが、それなりに手間と金とをかけて作られており、一定のスケール感はキープ。紛争地の美術やエンニオ・モリコーネの音楽もいい。
 主演ブノワ・マジメルは抑えた芝居、悲劇の中に身を置くジャックの心情を殊更に表現しようとはしない。「正義を振りかざすのではなく、ただひたすら冷静に自分の仕事を進めることこそが正義」というイメージで、本作のテーマとジャックの人物像に合っていると感じる。
 全体としてわかりやすい作りで、TVムービーながら第3回ローマ映画祭で観客賞を受賞したというのも納得できる仕上がりだ。

 地理的にも現代史的にも日本とは馴染みの薄い土地・事件であるため、心への迫りかたは小さいかも知れない。
 が、かつてボスニア・ヘルツェゴビナを支配したのは日本の盟友ナチス・ドイツ、サラエボ冬季五輪ではスピードスケート男子500mで北沢欣浩選手が銀メダルを獲得し、虐殺当時の国連で旧ユーゴ問題を担当したのは明石康氏。ピクシーやオシム監督は日本にとって恩人ともいうべき存在であり、ついでに主人公ジャックはトヨタ車を駆る(日本車の存在によって彼の地と此の地が地続きであることを認識するのは『バベル』と同様だ)。

 他人事ではない土地と事件を「現代的な戦争映画」という切り口で、わかりやすくまとめた作品といえるだろう。

●ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争関連の映画
『ハンティング・パーティ』
『ウェルカム・トゥ・サラエボ』
『エネミー・ライン』

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