バビロンA.D.
監督:マチュー・カソヴィッツ
出演:ヴィン・ディーゼル/ミシェル・ヨー/メラニー・ティエリー/ランベール・ウィルソン/マーク・ストロング/ジェロム・レ・バンナ/ジョエル・カービー/スレイマニ・ディッコ/ジェラール・ドパルデュー/シャーロット・ランプリング
30点満点中16点=監4/話2/出3/芸4/技3
【傭兵が請け負った、危険な仕事】
紛争やウィルス爆弾などによって荒廃し、貧困と暴力がはびこる近未来。傭兵のトーロップは、テロリストとしてアメリカから追われ、いまは新セルビアで暮らしていた。彼が裏社会の大物ゴルスキーから依頼されたのは、新興宗教団体ノーライト派の修道院からひとりの少女をNYへ運ぶ仕事。オーロラと呼ばれる少女、その母親代わりであるシスター・レベッカを連れて旅をするトーロップに、襲い掛かる敵。いったいオーロラとは何者なのか?
(2008年 アメリカ/フランス/イギリス)
【見せかたは上手いが、まとめかたは酷い】
序盤、トーロップがゴルスキーに会うまでの、有無をいわさず説明もせずにグイグイと引っ張っていくパワーは、結構好き。銃のマーケット、肉、腐れ縁の傭兵仲間とのやりとり、階段の少年、火のつかないタバコ……。
場合によっては「ゴルスキーさんが呼んでいる」と使者を登場させるだけでもいいはずだが、この流れの中で、トーロップの立ち位置や戦闘能力、社会背景などを観る者にわからせ、全体のトーンも印象づけてしまう。
以後も快調。とりわけアクション・シーンは歯切れよく迫力もあり、パルクールを採り入れた追跡劇、潜水艦に群がる難民たち、スノーモービルvs無人偵察機のスピード感、スローを効果的に使った銃撃戦など、それぞれに多彩なアイディアが盛り込まれている。
トーロップの隠れ家、修道院、緑の大地、雪と氷、荒野、闇市、アンダーグラウンドなどロケーションも素晴らしく、景色の映る窓、タッチコントロール式のマップ、対象人物がカラーで表示されるスコープ、生体パスポートなどガジェットの数々も楽しい。
難点は、スッキリとまとまらないストーリー。TVシリーズの前日譚スペシャル版とか、5話くらいあるサーガの1エピソードとか、そういうイメージの強い中途半端な仕上がりだ。
トーロップの過去やオーロラの生い立ち、ノーライト派の活動などすべてを明らかにする必要はないと思うが、「これまで」と「この後」を想像させたり、この物語の核をうかがわせたりする要素は明らかに不足している。
世界は何を求めているのか、それにノーライトがどのように応えようとしているのか、オーロラはどういう役目を果たすのか、新たな命は世界をどう変えるのか、その中でトーロップはどう生きていくのか……が、まったく伝わってこない。
たとえばオーロラは何度か「善」と「悪」について触れているが、考えてみれば彼女を守ってくれるものが善、利用しようとするものが悪という、極端な二元論でしかない。それが人類の身勝手さや神の存在といったテーマへつながる展開・まとめであったなら、少しは深みも生まれたことだろう。
過度な説明抜きで終末世界を描いたSFアクションとしては『ブレードランナー』に遠く及ばず、荒廃する神なき世でひとりの少女を運ぶ映画としては『トゥモロー・ワールド』にまったく敵わないデキだ。
Wikipediaによれば「撮影現場に弁護士がいて、1シーンとして脚本通りには撮れなかった」「『24』の出来の悪い1話のようだ」というのがカソヴィッツ監督の言。その割には素晴らしいシーンも多いし、自作をそんなに酷くいうことはないのに、とも感じるのだが。
同監督の代表作『ゴシカ』はプロデューサーがジョエル・シルヴァーにロバート・ゼメキス、逆に失敗作の『クリムゾン・リバー』や本作のプロデューサーは、やはりお話のまとめかたがマズかった『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』と同じイーラン・ゴールドマン。
そのあたり、すなわち「何をどうまとめれば面白くなるか」という点におけるプロデューサーの判断力の差が、如実に結果として出てしまっているのかも知れない。
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