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2011/04/17

トゥルー・グリット

監督:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演:ジェフ・ブリッジス/ヘイリー・スタインフェルド/マット・デイモン/ジョシュ・ブローリン/バリー・ペッパー/デイキン・マシューズ/ポール・レイ/ドマナール・グリーソン/エリザベス・マーヴェル/ロイ・リー・ジョーンズ/エド・コービン/ブルース・グリーン/キャンディス・ヒンクル/ピーター・リュン

30点満点中19点=監4/話3/出5/芸4/技3

【父の仇を追って荒野を往く】
 父を殺された14歳の少女マティ・ロス。犯人のチェイニーは、ラッキー・ネッド・ペッパーという悪党の下へ身を寄せているという。復讐を誓ったマティは、老保安官ルースター・コグバーンを雇ってチェイニーの追跡を始める。遠くテキサスからチェイニーを追ってきたというレンジャーのラビーフも交え、一行は先住民居留地へと踏み入ることに。だがコグバーンとラビーフの言い争いを機に、事態は思いもよらぬ展開を見せ……。
(2010年 アメリカ)

【彼女のための映画】
 前半、僕らはヘイリー・スタインフェルドという眩い才能に酔う。
 歩様の裏にある自信と恐れ、凛々しさと虚栄とが入り混じる立ち姿、微妙な視線の送りかた。もう完全にマティ・ロスという役を手の内に入れていることは明らかで、末恐ろしさすら感じる(とりわけコグバーンから巻きタバコを取り上げる際、コグバーンの胸に落ちたタバコの葉をパンパンと叩き落すところがツボ)。

 はっきりいって美人ではない。今後も美人にはならないだろう。が、きっぱりとした彼女の表情と立ち居振る舞いは、確かに本作の核。
 アンナソフィア・ロブやシアーシャ・ローナンやアビゲイル・ブレスリンが等身大に上手にそれぞれの役を演じたとするならば、ヘイリー・スタインフェルドはいったん自分を成長させてマティという役を俯瞰・咀嚼し、実年齢に戻ってから演じたような雰囲気。テイタム・オニールとかジョディ・フォスター級のデビューとするのは、いいすぎだろうか。
 けれど実際、オスカーをはじめ各種の映画賞でノミネートされ(片っ端から、というイメージだ)、実際いくつかは受賞。そこに込められているのは称賛というよりも、この子に刮目すべき、この子を大切に育てるべき、という米映画界の驚嘆や義務感のように思える。

 彼女を周囲から支えるのは、西部の町、荒野、掘っ立て小屋などを見事に表現した美術、これ以上ないくらいの衣装、実在感のある小道具、赤砂のザラつきや汗や腐臭をそのまま捉える撮影といった優れた仕事。
 また、ポンと挿入される引きの絵と適確なクローズアップによって生まれるリズム感も上々。決意、大人をやりこめる賢さ、無謀さなどマティのキャラクターが推し進めるストーリーもテンポがいい。
 復讐という題材を扱っていながら、そしてガッチリとした格の高い仕事で作品を構築しながら、ユーモラスで、どこか牧歌的で、「少女が主人公の映画(ヘイリー嬢の主演作といっていいほどだ)」としての和やかさを感じる仕上がりとなっている。

 ところが後半は一転、マティの存在感は薄れがちだ。ある意味“真っ当”で健やかだった前半から流れを変えてコーエン流のオフビートな空気も顔を覗かせるようになり、物語はおっさんたちのジタバタに終始する。
 コグバーンとラビーフの無意味な張り合い、西部ならではの仁義や姦計、けれど上手くは行かないあれやこれや、スマートではない決闘。

 このパートでは、大人たちがさすがの芝居。
 ジェフ・ブリッジスは実年齢より老けて衰え、マット・デイモンはこの場にそぐわない余所者の色を匂わせ、ジョシュ・ブローリンは頭が悪そうに見えるし、バリー・ペッパーはナイーブさを隠して小悪党になりきる。
 ただしみんな、貫禄よりも薄汚れた気配を前面に出して、ストーリーを牽引するのではなく振り回される愚かな男どもの姿をまっとうする。

 前半と後半のこの落差は、コーエン兄弟ならではの企みなのだろう。
 大いなる流れ、無慈悲な現実の中では、ちっぽけな人間などいともたやすく飲み込まれてしまう。そこで生き延びるためには、強い意志や才覚や勇気だけでなく、幸運(または悪運)と偶然と冷酷さが必要となる。
 子どもにとっても大人にとっても、現在や未来は、どうこうできるものではなく「がちゃがちゃっとした後で生まれるもの」に過ぎないのだ。

 そんな真理のただなかに「しっかりしているけれど所詮はひとりの少女」を放り込む、ある種の残酷さがこの映画の肝ではないだろうか。
 だからこそ、その荒波に揉まれ倒れても、完全に消えてしまわない存在としてのマティ=ヘイリー・スタインフェルドが、本作には欠かせない要素となるわけだ。
 やはり、彼女のための映画といえるのかも知れない。

●主なスタッフ
 撮影は『バートン・フィンク』以降のコーエン作品を支え、『ジャーヘッド』『告発のとき』も撮っているロジャー・ディーキンス。プロダクションデザインは『ノーカントリー』『プラダを着た悪魔』のジェス・ゴンコール、アート・ディレクターは『アバター』『ホワット・ライズ・ビニース』などのステファン・デチャントと『シャッターアイランド』などのクリスティナ・アン・ウィルソン。
 衣装は『スモーキン・エース』『ターミナル』などのメアリー・ゾフレス、メイキャップは『トロン:レガシー』のビート・エイセルや『アイ・アム・レジェンド』『パッション』のクリスティアン・ティンスレー。
 音楽は『かいじゅうたちのいるところ』『ROCK YOU!』のカーター・バーウェル、サウンドチームは『ニュー・ワールド』『エリザベスタウン』のスキップ・リヴゼイとクレイグ・バーキイら。
 SFXは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などに携わったチーム、スタントは『デュプリシティ』『ボーン・アルティメイタム』などのジェリー・ヒューイット。

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