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2011/04/25

その土曜日、7時58分

監督:シドニー・ルメット
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン/イーサン・ホーク/アルバート・フィニー/マリサ・トメイ/アレクサ・パラディノ/マイケル・シャノン/エイミー・ライアン/サラ・リヴィングストン/ブライアン・F・オバーン/ローズマリー・ハリス/ブレイン・ホートン/アリヤ・バレイキス

30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3

【狂った計画】
 苦労して不動産会社の重役へと上り詰めた兄アンディは、横領を隠蔽する必要に迫られ、妻ジーナとの冷えた関係を修復したいとも考えていた。元妻マーサや娘ダニエルと離れて暮らす弟ハンクは、養育費の支払いにあえぎながら許されぬ関係を続けていた。現状を打破すべく強盗計画をハンクに持ちかけるアンディ。ターゲットはNY郊外の小さな宝石店。それは絶対に失敗せず、誰も損をしない犯罪のはずだったが、ある誤算をキッカケに……。
(2007年 アメリカ/イギリス)

【狂いの行き着く先】
 お芝居映画としての色は、かなり濃い。
 アンディ役フィリップ・シーモア・ホフマンは『マグノリア』『カポーティ』『ダウト ~あるカトリック学校で~』などと同様の安定感。父チャールズのアルバート・フィニーは穏やかな死を迎える『ビッグ・フィッシュ』から一転、苦渋を顔に刻み、静かに怒りを漂わせる。体当たりのマリサ・トメイ、いかにもイヤ~な元妻を演じたエイミー・ライアンまで、上質のアンサンブルだ。
 とりわけイーサン・ホークが出色。『ガタカ』『アサルト13 要塞警察』など、これまでは「不安の中にも決意がある」というキャラクターのイメージが強かった人だが、今回は不安一色。“負け顔”とでも呼ぶべき表情で全編を押し通す。

 そうした演技を生かす作りもまたいい。
 長めに回されるカット、ズームやパンの多用、画面への人物配置など、全体にちょっと古さを感じさせる撮りかた。それがかえって、落ち着きと重さと静けさを作り出し、現代的犯罪サスペンスとは異なるリズム、居心地の悪い空気をももたらしている。
 時制の“いじくり”は、スリル効果としては薄く、その手法によって意外な事実が明かされることはないし、モノゴトの多角性を表現しているわけでもない。が、微妙にアングルやサイズを変えて繰り返される同一場面が、やはり独特のリズム感や居心地の悪さへとつながっている。必要なシーンを整理して盛り込む上手さもある。
 その場の音を丁寧に拾い上げる音声の処理は、登場人物たちとのキリキリとした一体感を呼び起こすといえるだろう。

 もっとも印象的なのは、画面に明るいところと暗いところがあり、そのどちらにも露出があっていない感じの映像。救われることも、とことん墜ちることもできず、ただ彷徨う登場人物たちを捉えるのに最適の質感だ。
 そして、画面いっぱいの光で物語は終わる。罪には罪でケリをつけるしかないという“救いのない救い”へとつながっていくわけだ。

 各所の紹介文やレビューでは「1つの誤算が家族を壊していく」的な書かれかたを見かけるが、いや、そうじゃないだろう。
 だいたい「その店」を襲おうと計画することじたい、この家族がとっくに壊れていた証拠。計画が狂ったわけではなく、彼らの人生そのものが狂っていたのだ
 原題は『Before the Devil Knows You're Dead』だが、悪魔が気づこうが気づくまいが、もはや死んだも同然の狂った人生は、どんな計画で修正しようとしても、その計画もまた狂気に満ちており、悲劇的な結末へと辿り着くほかないのである。

 疑いようもなく『十二人の怒れる男』は傑作だし、『評決』も『オリエント急行殺人事件』も好きな映画。が、『ファミリービジネス』で“甘さ”のようなものを感じて以来、ルメット作品は観ていないし、世間的にも不評だった様子。
 今回も、もう少し父チャールズに関する描写の比重を上げてもよかったんじゃないかという“甘さ”は残り、決して後味のいい映画でもないけれど、久々に巨匠が意地を見せた作品であることは確かだろう。

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