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2011/04/30

ラブ・ダイアリーズ

監督:アダム・ブルックス
出演:ライアン・レイノルズ/エリザベス・バンクス/レイチェル・ワイズ/アイラ・フィッシャー/アビゲイル・ブレスリン/デレク・ルーク/アダム・フェラーラ/ネストール・セラノ/ケヴィン・コリガン/アニー・パリッセ/アレクシー・ギルモア/マーク・ボナン/ケヴィン・クライン

30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3

【パパが出会った3人の女性】
 妻との離婚が決定したウィル・ヘイズ。ところが小学生の娘マーヤから、ふたりのなれそめを聞かせて欲しいとせがまれる。ウィルは「真剣に愛した女性は3人いた。彼女たちの話をするから誰がママか当ててごらん」と提案する。大学で知り合い将来を誓ったエイプリル、その親友でジャーナリストとなったサマー、大統領選のキャンペーンでともに働いたエミリー。ウィルと女性たちが綴った、恋と愛と友情のミステリーが幕を開ける。
(2008年 アメリカ/イギリス/フランス)

【関係と経験の積み重ねからなる人生】
 派手な映画ではない。ストーリーは「冴えないパパの若かりし頃」に過ぎないといえるし、描きかたもオーソドックス。けれど、興味深い展開、温かさと安心感、リズムのよさなどに満ちた作品だ。
 監督・脚本のアダム・ブルックスは『ウィンブルドン』のライター。あちらは「細かなところまで練られていて、かなりテンポがよくて隙の少ないシナリオ」だったが、本作も同様のテイストを持っていると感じた。

「いろいろな関係と経験の積み重ねが、いまの自分を作っている」
 それがテーマだろう。
 結局のところウィルは、エイプリルともサマーともエミリーとも、上手くいくようでハズしてしまう。ハズしそうだけれど、心はどこかで確実につながっている。
 あるいは資金集めのパーティーに人を呼ぶためのハッタリでウィルは男を上げ、「トイレットペーパー君」というニックネームも消し飛んでしまうわけだが、やがては政界への夢を諦めざるを得ない立場となる。

 そういう揺れ動きの中で、彼は少しずつ“いまのウィル”へと近づいていく。その瞬間には喜びや楽しさを覚えたことも、失敗や裏切りと感じたことも、等しく自分の中に積み上がっていくのだ。

 関係と経験の浮き沈みで構成される日常を、カメラは、人と人との位置に配慮しながら捉えていく。
 寝そべるふたり。歩きながら話すふたり。飲みながら語る仲間。向かい合ったり隣り合ったり。画面にバリエーションが生まれるだけでなく、人と人との関係性にもさまざまなカタチがあると知らせる構成だ。
 さらに、いいタイミングで、ときには話の腰を折るように、ポンと現代へと戻る。この構造もまた、ストーリーにリズムをもたらすだけではなく、人生の“ままならなさ”や、誰にでも他人には理解しにくい過去があることを知らせる役割を果たしている。

 ライアン・レイノルズは手堅く、アビゲイル・ブレスリンは相変わらず上手いが、やはり本作の中心は3人の女性。
 親しみやすい美貌を持つエリザベス・バンクスのエミリーは、自分自身の都合を優先するようなタイプ。それだけに堅実さやたくましさも持っているはずで、彼女のマイペースに耐えられたり気にならなかったりすれば“よき伴侶”になってくれそうな感じもある。
 メガネ萌えのレイチェル・ワイズ(最初は彼女だとわからなかった)演じるサマーは、知的で、ちょっと危険で、でも甘える上手さも持っていて、経験上こういうタイプには“振り回されて終わり”というのが当然の帰結。けれど離れがたい空気を放っている。
 明るくチャーミングなアイラ・フィッシャーのエイプリルは、反面どこかに寂しさも持っていて、ひとつずつの出来事を自分の中で消化しながら変わっていくタイプ。もっとも“人間っぽい”ともいえ、だから自分自身の人間的部分とシンクロすれば、友情も愛情も芽生えそうだ。
 それぞれ異なるキャラクターであることは当然だが、それがオーバーな描き分けにならず、人物像もウィルとの関係もリアリティに富んでいる。

 で、彼女たちとウィルとの関わりの中で、ドキっとしたのがエイプリルのある場面。柱の陰から顔を出し、いったん引っ込んでからまた出てきてウィルに声をかける。人の登場のさせかたとしてオシャレであることに加え、いちど消えたように思えた関係がまた復活、という、本作の構成そのものを暗示しているようで面白い。

 さて「いろいろな関係と経験の積み重ね」の果てに、想像もしなかった仕事や生活を送ることになったウィル。でも「ハッピーエンド」といえる幸せ=マーヤとの関係が、彼にはある。この、頭が良くって優しい女の子を育てたのだから、確かに“いまのウィル”はハッピーであるはず。
 ジョギング中の元大統領に声をかけるのは、あの人物に関わった自分も肯定しようという、ウィルの変化の表れだろう。

 原題は『Definitely,Maybe』で「きっとそうだ。たぶん……」といったところか。また作中では『ジェーン・エア』が引用され、「人の心にはさまざまな秘密が隠されていて、思考も希望も夢も喜びも、暴かれた途端に壊される」といったことが告げられる。
 そんな、アヤフヤで、壊れやすい人生でも、関係と経験を積み重ねながら歩んでいかなくてはならない。きっと未来の自分は「ハッピーエンド」なのだと信じて。

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